9話 前世の俺の家族
懐かしい夢を見た――。
「玲ー! 何してるの!! 琉生君がもう来てるわよー」
「わかってるって!! 今、行くから」
階下から母さんの急かすような声が聞こえて返事をする。
荷物を持って階段を降りると玄関には母さんと琉生が立っていた。
「ごめん! 琉生、寝坊した」
「だろうと思ったよ。しかし、大会の日に寝坊するとか大物だなあ、俺なんていつもより早く目が覚めたのに」
今日は、剣道大会の地区予選で、小学校の部で俺達は出場することになっている。琉生と俺の親父は大親友で家も隣同士だ。だから必然的に俺と琉生も子供のころからの付き合いで仲良くなった。
「今日は、俺も見に行くから気張れよ!」
玄関の外で俺の親父と琉生の親父が談笑していた。俺を見た親父が俺の頭をぐりぐりしながら笑って言った。
「父さん、普通はプレッシャーになるようなことは言わなんじゃ…」
「ぷれっしゃあ? ははは! おまえはそんな肝っ玉の小さい奴じゃないだろ!」
「玲君は本当にお前の子供の頃とそっくりだな」
琉生の親父も一緒になって笑っている。子供がこれから大会っていうのにまったくのん気なもんだぜ。
「じゃあ、俺達は先に会場に行っとくぞ」
「おう、よろしく頼む」
俺と琉生は先に琉生の親父さんの車で会場に行くことになっていた。親父たちは大会が始まる前に到着する予定だ。
「にーちゃん、がんばえ~」
「にーちゃ、がんばれ~」
双子の弟と妹が玄関まで見送りに来てくれた。
「
「「はいー!!」」
3歳になったばかりの弟たちがかわいくて、二人の頭を撫でて車に乗り込んだ。
「じゃあ、気を付けてなー」
「おう、任せておけ」
親父たちのやり取りの後、車が動き出す。
後ろを振り返ったら親父と母さんが弟と妹をそれぞれ抱っこして笑いながら俺達の車を見送っていた。
そして、それが俺が見た家族の最後になった。
大会が始まっても親父たちが来ないのが気になったが順当に勝ち進んだ。そして決勝で琉生と対戦して俺は琉生に負けて準優勝となった。
表彰式が終わって控室に向かう途中の廊下で険しい表情をした琉生の親父さんがいた。
「玲君、落ち着いて聞いて欲しい。
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「え?」
そして連れてこられた病院で顔に布を被せられた4つの
それからはあまり良く覚えていない。
なんだか知らないうちに親父たちの葬式が行われて(後から知ったことだけど全部、琉生の親父さんがやってくれてた)、俺は天涯孤独の身となった。
琉生の親父さんが一緒に住もうと言ってくれたが、この家まで手放してしまったら俺には何も残らない気がして断った。
親父たちはもしもの事があった時のために保険やら預金やら十分すぎるほど残してくれてたし、俺が大学進学しても余裕に生活ができるくらいだ。
ご飯も琉生が必ず琉生の自宅に呼んでくれてご飯を一緒に食べたから食い物にも困らなかったし、すごく恵まれていたと思う。
「お前、そんなに無理して笑うな」
一人にも慣れ始めたある日、琉生にそんなことを言われた。
「無理してなんかいないぞ」
そう言って笑うと、奴の顔が歪んで泣き始めた。
「お、おい。どうしたんだよ」
いきなり泣き出した琉生に俺は慌てた。琉生がポケットから小さな折り畳みの鏡を俺に渡した。
「笑ってみて……」
「? なんだよいきなり、変な奴~」
俺は笑いながら鏡を覗いた。
そこには真顔で口角だけが上がっている俺が映っていた。手から鏡がするりと落ちた。
俺は今までこんな顔で笑っていたのか。
「玲、俺の前だけはつらい時はつらいって言ってほしい。泣きたいときは泣いて欲しい。一緒に泣いてやるから…」
ああ、そうか。
そうして気づいた、俺は親父たちが死んでも涙さえ流してなかったことに。
それから二人でわんわん泣いて、泣いているところを琉生のお母さんや親父さんに見られて少し恥ずかしかったけど、親父さんたちも一緒になって泣いた。どうやら俺がおかしくなってしまったとだいぶ心配していたらしい。
そんなことがあってから、素直に感情を出すことができるようになった。琉生と琉生の両親には感謝している。
俺が死んじまって、琉生の奴はきっと悲しんだだろうな。
せめて俺が転生していて元気にやっているって伝えることができたらいいんだけど。
今度、あのクソ女神に会う事があったら聞いてみよう。
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