8話 お前ら絶対笑ってはいけない○○でもやってんのか?
王城の大きなダイニングルームは静けさが漂っていた。
給仕係や侍女を含めたら二桁いくであろう人数がこの空間にいるのにだれ一人として声を出さずひたすら出てきた食事を口に運ぶ動作を繰り返している。
長いテーブルの一番先に王様が座っている。王様はまだ若く30代くらいに見える黒髪に紫の瞳はクリストファー王子と同じでその容姿も王子が年を取ればあのようになるのだろうなと思わせるほど似ていた。かなりの美形だ。
そしてその両隣に王妃と側妃が向かい合わせで座っている。王妃は金髪碧眼の超がつくほどの美女だった。女性の年齢を推測するのは失礼だがたぶん王様と同じ年だろう。席に着くときに目が合って微笑まれたときは女神ではないかと思うくらい胸が高鳴った。そして側妃はこれもまた美人だがその雰囲気は冷たい印象を受けた。双子の髪の色は王様譲りで瞳の色は側妃と同じだった。側妃も席に座るときに俺を見たがすぐに目を逸らされた。その雰囲気からあまり歓迎されていないようだ。
王妃の隣にはクリストファー王子がいてその隣が俺の席となっている。そして何故か俺の隣にライアン王子とエリザベス王女が座っていた。席順で言うと側妃の隣になるはずなんだろうけど、俺が座った隣に並んで座ってしまった。だれも咎めなかったし、席の場所なんて関係ないかと思い直した。それに俺は子供が好きだしこれで仲良くなれるのなら大歓迎だと思ったのだが……。
それぞれが静かに食事をしている間に俺は隣の王子と王女に嫌がらせ(?)らしきものを受けていた。
丁寧に取られた緑の豆が王女から王子へ、そして王子の分を足して俺の皿の中へ投入されている。
いや、これってマナー違反だろ、誰も何も言わないのかよ。と思いつつ周りを見ると誰も彼もこちらに目を合わせようとしない。気づいててもどうすることもできないのだろう。なら、母親が叱るべきじゃないのかと側妃の方を見るがこっちを見る気配がまったくない。
うわ…、子供に感心のない親ってこの世界でもいるんだなあ。
隣を見ると真剣にピラミッド状に積み上げる王子が何だかかわいくて笑いたくなってきてしまった。すでに頬は緩んでいる自覚がある。
ちょっとしたいたずら心が出て、王子が積み上げた緑の豆を器用にスプーンですくいあげてパクっと口の中に入れた。
その様子をぽかんと口を開けて見ていた王子と王女の表情があまりにそっくりで耐え切れず笑ってしまった。
「レイラ嬢、如何した?」
それまで、無言で食べていた王様が俺の笑い声で話しかけてきた。
「も、申し訳ございません。あまりにもライアン王子とエリザベス王女がかわいらしかったので、つい」
と言って頭を下げた。隣のクリストファー王子が少し睨んでいるようだが、知るか! 俺は年末年始のあの番組でもすぐに笑っちまうゲラなんだよ。我慢できるかよ!
「ほぅ、レイラ嬢は子供が好きなのかな?」
「はい、私には弟も妹もいないので……。王子と王女とは仲良くさせていただきたいと思っています」
「それはよいことだ。ライアン、エリザベス。レイラ嬢はお前たちの義姉になるのだから仲良くするのだぞ」
俺の言葉に王様は満足そうに笑って双子に言った。
「「はい…」」
双子は嫌がらせが失敗したからかもしくは俺と仲良くしろと言われたのがショックだったのかそれからは大人しく食事をしていた。
♢♢♢♢♢♢♢
「なあなあ! お前の弟と妹かわいいんだけど!! なんで教えてくれなかったんだよ」
「……また、あなたは性懲りもなく人の部屋に入ってきて」
俺はまた前日の夜と同じく王子様の寝室に入ってベッドの上で膝を突き合わせて座っていた。
「いいじゃんか! あの後、お前はまたどっか行っちまうしこの時間ならいると思ったんだ」
「私には仕事が残っていたんです。やっとそれを終えて眠りにつけると思ったら邪魔される身にもなってください」
「まあまあ、ちょっとばかり話をするだけじゃん! な?」
「…はあ~、一つだけ言っておきます。あの双子にはあまり近づかない方がいいですよ」
「なんでだよ! せっかく仲良くしろって王様の言葉ももらえたんだ、明日から構い倒すに決まってんだろ!」
「…あの子たちは側妃の子供です。王妃の子である私の婚約者であるあなたに側妃派の人間たちは良いようには思わないでしょう。あの双子に何かあった場合、槍玉に挙げられかねません」
「やっぱ派閥とかあるんだなあ。あ、もしかしてライアン王子を王様にしたいとか?」
「まあ、そのような事です。どうもあの方は
「マジかよ~、なんでそんなにみんな、権力が欲しいのかね? 自由気ままに楽しく暮らすのが一番楽だと思うけどなあ」
「…考え方は人それぞれですよ。というわけなので、あの双子にはあまり深くかかわらないように。私はそろそろ寝ますので部屋に帰ってください」
そう言って王子はベッドに横になってシーツを被ると瞬く間に寝息が聞こえ始めた。
「だから、寝るのがはえーんだよ!!」
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