6話 お前、実はいいやつだったんだな‼



馬車を奴のエスコートで降りると護衛の人が二人と年配のメイドの服を着たおばさんが出迎えに来ていた。


「レイラ様、ようこそおいで下さいました。私は侍女長を務めさせていただいております。ベラと申します。お部屋をご用意もしておりますのでどうぞこちらへ」


「ではレイラ嬢、参りましょうか」


そう言って王子様が腕を突き出してくる。これってもしかして腕を絡めろと?マジかよ……。


にっこりと微笑む王子の顔は早くしろと言っているようだ。仕方なく奴の腕の曲がった部分にちょんと指先を置いた。

こういった苦行がこれからも行われるのかと思うとちょっと憂鬱になるがこれも乗り掛かった船だ、やるしかない!


「……ねえ、ベラ。なんだか私の部屋に向かっているみたいなんだけど」


向っている途中で王子様が不機嫌な声で先導しているベラさんに尋ねている。


「クリストファー殿下のお部屋ではなく、その隣でございます」


「はあっ? 私は貴賓用の部屋を用意しろと言ったはずだが」


なんだか一気に王子様の機嫌が悪くなった。


「王妃様がいずれは結婚するのなら王太子妃の部屋にした方がよいとおっしゃられましたので……」


「母上が……」


「さようにございます」


「チッ」


王子様が小さく舌打ちするのが聞こえた。王子でも舌打ちするんだなあと俺はのん気に考えていると部屋に着いたようだ。


「レイラ様のお部屋はこちらになります。何か足りない物がございましたらなんなりとお申し付けください。それから、レイラ様の専属の侍女たちを3人付けております」


部屋に入ると淡いピンクの色で家具や壁紙カーテンが統一されていた。いかにもザ・女の子の部屋といった感じの作りだ。


「レイラ様、本日よりレイラ様付きの侍女になります。エミリーと申します。何かご不便な事がございましたらなんなりとお申し付けください」


部屋の内装をキョロキョロみていた俺に侍女さんの一人が話しかけてきた。カレンさんは黒髪に黒目でシャープな顔立ちと少し目じりが上がっていて一見きつそうに見えるがなかなかの美人さんだ。例えるならクール系女子と言ったところか。なかなかいいではないか!


「エミリーさんですね。よろしくお願いしますわ」


「レイラ様、私も本日よりレイラ様の専属侍女となります。パメラと申します。よろしくお願いします」


エミリーさんの隣にいた侍女さんも挨拶をしてきた。淡い栗色の髪が肩で内巻きにカールされている、瞳の色は茶色で雰囲気から活発そうな子だ。歳は17、8くらいかな? ふおおお! なかなか俺のツボをおさえているではないか! 王子! いや王子様と呼ばせてもらおう!!

近くにいた王子に声には出せないが精一杯の俺の賛辞を目で表現してみた。なんだか受け取ってもらえたようだがすごく嫌な顔をされた。なんでだ?


「あら? キキはどうしたのかしら?」


「それが、花瓶に花を生けると言って出て行ったきり帰ってこなくて……」


侍女長さんの問いにエミリーさんが困ったような顔で返した。


「遅くなりまして、すみません!!」


慌ただしく部屋の扉が開かれると大きな花瓶を抱えた少女が入ってきた…のだが入った瞬間何かに足を躓かせて盛大に転んだ。


「キキ!! あなたは何をやっているの!!!」


侍女長が目を吊り上げて怒っている。

俺はその声に気にせず転んで倒れているキキに駆け寄った。

金髪の三つ編みで青い瞳のそばかすがチャームポイントのかわいい子だった。


「大丈夫? 怪我はない?」


水浸しの床に倒れこんでいるキキを助け起こした。


「だ、大丈夫でございますっ。も、申し訳ございません!」


「別に謝らなくていいわ。それより早く着替えてきなさい、風邪をひいてしまったら大変です」


「は、はいっ」


パメラさんがキキさんに付き添って部屋を出て行く。


「レイラ様っ、大変申し訳ございませんでした! あの者は直ちに解雇に致しますのでっ」


侍女長は顔を真っ青にさせて言ってくる。


「侍女長さん、間違いや失敗は誰にでもありますわ。私は彼女を気に入りましたのでこのまま専属とさせていただきませんか? 殿下よろしいでしょうか?」


せっかくのドジっ子メイド枠を辞めさせてたまるか!!

俺と侍女長のやり取りを静観していた王子に同意を求めた。


「レイラ嬢がいいと言っているのなら、それでいいと思いますよ」










♢♢♢♢♢♢♢



「俺は、お前が嫌な奴だと思っていたんだが、実はいい奴だったんだな!」


「……あのですね。あなたここがどこかわかります?」


「お前の部屋のベッドの上。だってよー、あの後、お前はさっさと出て行っちまうし、夜まで予定が埋まっているっていうからこの時間に来るしかないだろ!」


「…それにしても、普通は夜中に他人の部屋に忍び込むなんてことしませんよ」


「いいじゃんか! 今日のうちにお礼を言っておきたかったんだよ」


感謝の言葉はすぐに伝えないとな! 死んじまったら伝えられねーもん。


「はいはい、わかりました。私は明日も朝が早いので休ませてください。…ああ、そうそう。伝えるの忘れていましたが、明日の晩餐に父上と母上が貴女を招待すると言ってましたので」


「はあ!? 聞いてないんだけど!?」


「だから今、言ったんじゃないですか。誰かに知られる前に早く部屋に戻ってください」


「おい!! いきなりそんなこと言われたって食事のマナーとか俺知らないんだけど!! どうするんだよ!」


シーツを被って眠る体制に入る王子様を揺さぶって起こす。


「ああ、めんどくさ…、まあ、あした侍女たちにでも教えて…もらって…」


そのまま眠りについてしまった王子を呆然と眺める。

なんですぐ寝れるんだよっ、お前はの〇太か!!


くそお、どうすりゃいいんだ!!


途方にくれて部屋に戻ってベッドに入ったのはいいがなかなか寝付くことができなかった。


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