第2話 黄色の季節

俺の家族は今、妻だけだ。

子供たち2人はもう、仕事を始めて一人暮らしをしている。



妻とは仲がいいと思う。

仕事から帰ってくれば、妻が作ったご飯が待っているのだから。




クロネコは俺たち夫婦になついた。

そのなつき方が、小さな頃の子供たちのようで可愛くて俺たちはスマホで写真を撮ったり、やったことのないFacebookをようやくやってみたり、とにかく夢中になった。




このクロネコがきて、1番喜んでいるのは妻だった。

ある日、その理由を聞いてみると。

『あなたとの会話が増えて嬉しいのよ』と、少し恥ずかしそうに自白した。



俺たち夫婦はこのクロネコに、ブラッくんと、名前をつけた。



真っ黒なオスのクロネコにピッタリな気がした。




ブラッくんの写真を撮ったり、動画を撮ったりした。



そして、ある休日の日、なぜかわからないけど。

妻を連れて都内の楽器屋に車で行った。

『ギターを見に行こうと思って。見に行くだけだよ。買わないから。』と、言い訳めいた言葉を何度も妻に言った。


妻は、笑って買ったらいいのに。と、そのたびに返事した。


楽器屋には、お目当ての黒いレスポールがライトに当たり飾ってあった。


お値段、38万円ほど。



高いが、買えないほどではない。

だが、趣味で買うにはもったいないかなと悩んでいた時、妻がこう言った。


『あの黒いギター、ブラッくんのようね。丸くて黒くて。このギターいいんじゃない?ブラッくんと、名前をつけて可愛がったら?』と、俺が欲しいギターを指差してこう言った。


俺はそのブラッくんギターを試し弾きさせてもらい、その音にすごく満足して、購入することに決めた。



帰り道に、こんな曲弾けたらかっこいいなって妻と車の中で笑い合い、クロネコのブラッくんが待つ家に急いだ。



帰り道は妻に感謝のつもりで、ファミレスで夕ご飯とパフェを食べた。

妻は『美味しい!美味しい!』と、ずっと笑っていた。




帰るとクロネコのブラッくんに弾いてみせた。

指がまだ柔らかく、弦を押さえきれなくて変な音になった。


きっと、クロネコのブラッくんもギターのブラッくんも笑っていたと思う。

なぜなら、俺たち夫婦も、笑っていたのだから。

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