第6話 皮――ガワ。
【回想】
過去、最初の記憶。
――『人の子が捨てられてるわ』
あの時、俺は捨て子として、メローに拾われた。
俺を産んだ親の、顔も名前も分からない。
けれど、両親とも人間に違いなかった。
そんな人間の俺が、捨てられた。
ダンジョンの入り口に廃棄された。
そして、魔物のメローとヤーライに拾われたのだ。
メローが最初に見つけ、ヤーライが駆けてきた。
『メロー!』
土の上に跪く人魚。
赤子を抱えた人魚に、リザードマンが駆け寄る。
『ダメだろう! メロー! あの術は完璧じゃないんだぞ』
『ヤーライ……どうしましょう、この子』
『えっと、それは……人の子かい』
『ええ、そう言ったじゃない』
『生憎と耳が遠くてね……700リーバも離れちゃ聴こえないんだ』
そう言ってから、リザードマン――ヤーライは、顎に人差し指を掛ける。
メローを見て、眉を顰める。
メローは赤子を抱えて、それから目を離さない。
愛おしく、包むような青い瞳。
その視線を見て、ヤーライはため息を吐く。
『この子を育てるわ、ヤーライ』
『そう言うんじゃないかって思ったよ……』
人間は、魔物の群れに馴染めない。
ましてや、ダンジョンになんて。
バレたら、みんなの餌である。
そして、メローもタダでは済まない。
人間を育てていた、なんてバレたら。
ヤーライはその事を心配していた。
『ダメだと言ってもムダかな』
『ムダ』
ヤーライは悩んだ末に、提案した。
『分かった』
『やったっ』
『でも、条件がある』
『何?』
『この子を育てるのなら、魔物としてだ』
それは、俺の全てを左右する事になる。
そんな提案だった。
俺の記憶の中で、最初、強烈に残ったセリフ。
――『魔物の子を拾った事にしよう、ダンジョンの連中には』
この時から、俺は魔物となった。
実際は違うけど。
魔物を演じなければいけなくなった。
ダンジョンで生き残る為には――
魔物の
――――――――――――――――――――
魔物を演じるなんて。
赤ん坊に出来ない芸当だ。“普通”ならば。
というか、メローめ。
しょぼい偽の角だけ被せて、ラルガに俺を預けるな。
まぁ大丈夫でしょ!――じゃないんだよ。
「そういや、イクス様……実は元人間――なんて噂もあったか」
ほら、バレそうだ。
ラルガは、魔物に混じった元人間の話をしようとしていた。
俺を見ながらに。
次にも、言い出しそうだ。
「アレが本当なら、仲間内でリンチじゃが」
俺は生唾を飲む。
もしかして、バレたか。
今にも言い出しそうだ――俺が人間だと。
「とびっきり、バカな"嘘"じゃったのぅ。アレは」
ため息を吐く俺。
万事休す。
あのおてんば人魚め、ヤーライに怒られろ。
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