筒抜け

 娘の夏休みの工作で竹筒を加工して万華鏡を作った。

 たまたま私は林業に携わっていたこともあって竹藪に行って、一本だけ切り倒したのをもとにして、作った。

 一本丸々持って帰るわけにもいかないから、間引きの手伝いという名目で切り倒し、一部だけ貰った。

 一部と言っても、それなりの長さがあるもので、使った部分をとっても六寸程はあった。

 娘の万華鏡はかなり上手に作ることができて、大変満足と言った気分だったが、嫁に直後、「これ、どうなさるんですか?」と聞かれ、その竹筒には困った記憶が付いてしまった。

 竹筒というくらいなのだ、真ん中は空洞で、覗けば先が見える。

 畳の上、卓袱台に乗せられた自分の湯飲み茶碗をふと何も考えずに覗いた。

 覗いた先には変わらぬ風景。

 では、なかった。

 覗いた先は確かに我が家の居間だ。

 卓袱台も、湯飲みもある。

 だが、畳は炭のように焦げ付き、傷だらけになっていた。

 それに相応に釣り合おうかとするように卓袱台も似たような状態になっており、その上に乗せられている湯飲みは横に倒れており、欠けるではなく割れていて、そこから灰が零れるようにある。

 まるで火災の後だ。

 筒から一度、顔を放し、普通の、今までまで通りの景色が目に移り、疑問が浮かび続けた。

 この竹筒は何かがおかしい。

 そう思い、翌日燃やすことにした。

 庭に火を焚き、底に竹筒を投げ入れる。

 少し待つと燃えだした。

 燃えだして、橙色の炎が赤みを増し、初めてみるほどに紅い炎にたちまち変わる。

 変った焔から、ぱちぱちと音がする中、ほかの音も聞こえはじめる。


 「あぁ、のぞけたのに」


 「みえれたのに」


 「出れるかもしれなかったのに」


 「ここからだして」


 「もう嫌だよ」


 老若男女の悍ましい数多の声。

 その声と、昨夜の風景で何となくその竹筒に関連するのが分かった。

 この竹をとった山は地元の人からこう言われている。

 地獄山、と。

 そして、私は思う。

 娘の万華鏡から覗く景色がこの世のものとつながり続けて欲しい。

 そんな願いを浮かべる。

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