万華鏡

 昔から、私の家には万華鏡がある。

 祖母のまた祖母の代から在るモノらしくて、それなりに古いものだけど、汚いわけではなく、古さの残る綺麗なものと言える見た目をそれはしていた。

 小学校から帰り、私は万華鏡をいつものように覗き始めた。

 万華鏡を揺らしたり、回したり、動きをくわえれば加えるほど、不思議な形はさらに不思議に変ってゆく。

 きれいな不可思議。

 目にはそんな景色が映る。

 何回も動かして、動かして、その時、変な風に景色が変わった。

 どこかで見たことがあるおばあちゃんの寝顔、そんな景色が色とりどりと映えていた。

 私は驚きもせずにただただそれを不思議と感じながらまた動かした。

 するとまた見知った、別のおばさんの眠る顔。

 また動かすと今度はさっきのおばさんより、少し若い女の人の寝顔に変わった。

 その時、その顔が何なのか分かった。

 今見ているのはおばあちゃんのお母さんだ。

 その前も、前の前の映った顔もお仏壇の部屋、襖の上に飾られた写真の顔だ。

 じゃあ…。

 そう思って、もう一度動かすと今度は私の知っている、私のおばあちゃんの顔になった。

 じゃあ、じゃあ。

 そう思ってまた動かした途端。

 知らないおばあちゃんの顔が出て。


 「え?」


 思わず声が出た。

 お母さんには似ているんだけど、どこか違う。

 じゃあ、次は?

 そう思って、また動かして覗いた。

 そこには鏡に映したように私の顔があった。

 当然のその顔は寝顔だった。

 そんな不思議な体験をして、どうしてか万華鏡に飽きた私は外で遊ぶ気が起き、家を飛び出た。

 公園は信号を渡ればすぐ。

 赤信号を待っていると誰かが背中を押して、私は道路に突き飛ばされた。

 ププー!!

 クラクションの音がとても鮮烈だった。

 

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