奇跡の街と青いペンダント
TEKKON
奇跡の街と青いペンダント
―― モノローグ ――
今日、僕はお父さんに連れられて
ちょっとだけ不思議な世界に足を踏み入れたんだ
「奇跡の街と青いペンダント」
―― 1 ――
僕の住んでいるフェザン王国の隣にある
独立国家ノイエランの交流街バラトに来て数日。
僕は新しい土地に夢中になっていた。
フェザン王国とは違うモノが
たくさんある事に気づいたからだ。
今日はお父さんがお仕事で忙しいから
僕一人で街を歩いてみようと決めた。
さぁ、大冒険の始まりだ!
街に入って最初にビックリした事は
大きな倉庫やコンテナがたくさんある事だ。
ここは物流の街らしくトラックや
トレーラーがたくさん走っている。
まるで小人になったみたいだ。
そのまま賑やかな商店街の中に入ると、
もっと色んな事がわかってきた。
みんなが来ている服がちょっと違う、
流行が違う、歌が違う、建物のデザインも違う。
言葉は全く一緒なのに面白いな。と思った。
「……あれ?」
僕は変な形の塔を見つけた、
広場にポツンと立っている大きな塔。
高さは10メートルくらいだろうか?
塔の入り口に何か書かれているみたいだけど
周りは背の高い大人ばっかりで少し見えにくい。
人混みの中を潜って塔に向かおうとした時、
「ねぇ、何しているの?」
と後ろから女の人に声をかけられた。
びっくりして振り向くと
お姉さんが笑いながら僕を見ていた。
長くて栗色の髪、高そうな服、
そして胸元にある大きな青いペンダント、
こんな綺麗な人もいるんだと僕はドキドキした。
「ふーん。そっか」
お姉さんは僕の胸元をチラッと見て言った。
「こんにちは。あなたはフェザンから来たのね。
この塔が気になった?」
その時、お姉さんの優しい匂いがした。
「はい」 と僕はうなずいた。
緊張で少し声が上ずったかもしれない。
「これは祈りの塔。バラトを作った人達が
平和と共存を願って建てた塔よ」
お姉さんは少しだけ悲しそうな顔をした気がした、
「ここに来たという事はお父さんかお母さんが
お仕事で来ているのよね。どう?この街は」
僕はこの数日の興奮をお姉さんに伝えた。
お姉さんは嬉しそうに聞いて「良かった」と
小さな声で呟いた。
それから少しの時間、お姉さんとお話をした。
「あなたは一人で冒険に来たんだ。凄いね!」
「色んな事を知ろうとする事は良い事よ」
お姉さんのお話はとても楽しくて、
お別れするのが悲しくなった。
でも、別れ際にお姉さんは言ってくれたんだ。
「ねぇ、私は毎週ここに来るから
また遊びにいらっしゃい。
この奇跡の街の事、教えてあげる」
「奇跡の街?」
「そう奇跡の街。ここは皆の夢と希望が
詰まったとても大切な街なのよ」
嬉しそうに喋るお姉さんはとても素敵で、
そのお姉さんとまた会える事が
とにかく嬉しかった。
―― 2 ――
それから月に数回、僕はお姉さんと遊び
バラトについて色んな事を教えてもらった。
お姉さんと遊ぶのはとても楽しくて、
ずっとバラトにいたいと思うようになっていた。
ある日、お父さんにお姉さんの事を話したら
友達が出来て良かったなと喜んでくれた。
でも、青いペンダントの事を話した時、
お父さんは急に真剣な顔になりこう言ったんだ。
「いいかい。その人と喧嘩してはいけないよ」
そうだ。僕は気になる事があったんだ。
まずはペンダントの事。バラトの人たちは
みんな首からペンダントをしているんだ、
お姉さんが最初に僕の胸元を見たのは
ペンダントを確認したのかもしれない。
ふとそう思った。
人によりペンダントの色は違い
全部で3色あるみたいだ、
大体の人は赤色。たまに黄色。
そして青色はお姉さんとごく一部の人だけ。
もっと気になる事。
僕はお姉さんの名前がわからないんだ。
もちろん何度か聞いてみた事はあるけれど、
お姉さんは秘密と言って絶対教えてくれなかった。
どうしてなんだろう。
もしかして僕の事が嫌いなのだろうか。
言いようのない不安で少し泣きそうになった。
そして、その答えはすぐにわかった。
お姉さんと大人気のアイスクリーム屋さんに入った時だ。
「お姉さんは何ですぐお店に入れるの?
ちゃんと並ばないとダメだよ」
「えーと……」
珍しくお姉さんが困った顔を見せた。
その時、店員さんがこう言ったんだ。
「坊や。この方は一等国民だから大丈夫なのよ」
「……えっ?」
一等国民という言葉は僕の国には無く、
とてもいけない事に聞こえたんだ。
「お姉さん、一等国民って何?」
「……」
もしかしたら僕は怖い顔をしていたのかもしれない。
お姉さんはいつもの広場でノイエランの
不思議なルールについて話してくれた。
国民は能力によって3種類に分けられてる事。
国民はそれがわかるようにペンダントを
首からぶら下げなければいけない事。
青色はとても優秀で偉い一等国民
黄色は優秀で社長になれる二等国民
赤色で普通の人の三等国民
同じ色同士じゃないと結婚出来ないとか
細かいルールがたくさんある事。
僕はびっくりしたと同時に凄く嫌だと感じた。
同じ言葉を話す人が、こんなに素敵な人が
そんな事を言うなんて信じられなかった。
僕は学校で人間はみんな平等だと勉強したんだ。
“ふこくきょうへい”なんて知らない。
お姉さんは間違っている!
少しの時間が過ぎたあと
「……そうよね、これはあなたの国には無いもんね」
僕の表情を見て少し悲しげにお姉さんは言った。
「でもね。これだけはわかってほしいの」
初めて見る真剣なお姉さんの顔だ。
「国が違うという事はこういう事なの。
でもね、どちらが良い悪いでもなければ
どちらが当たってるか間違っているかでもないの」
「……」
「何でこの街が奇跡の街と呼ばれているか、
何でここに祈りの塔が建てられているか、
考えてもらえたら嬉しいな」
お姉さんは笑顔を見せながら立ち上がって
僕に近づき頭をそっと撫でた。
お姉さんの匂いがした。
「もう帰ろっか。今日はありがとう」
「あっ……」
お姉さんは手を振りながら帰ってしまった。
僕はお姉さんを怒らせてしまったのだろうか。
それとも……
―― 3 ――
あれから1ヶ月、
僕はお姉さんと会っていない。
お姉さんと会うのが怖くなったのかもしれない
僕と違う国の人だとわかったから。
「近い内に帰国するかもしれないよ」
ある日、お父さんが言った。
「……」
お父さんは何も言わないけど
理由はなんとなくわかる。
街の雰囲気が最近おかしいからだ、
少しずつ街から笑顔が消えているし
心なしか僕を見る目も少し変わってきている。
「だから、あの人とも会えなくなるかもしれない
伝えたい事があるなら早い内にな」
お父さんには何も言ってないけど
何かに気付いてるのだろうか。
でも、僕はこの前の出来事がキッカケで
この街、この国自体が得体のしれない物に
感じてしまっていた。
だから、僕はもうお姉さんと会うことは
もう無いだろう。もう会わなくてもいいとまで
思っていたんだ。
しかし、お父さんに改めてそう言われると
本当にそれで良いのかと思い始めた。
僕はどうしたら良いのだろう……
「うん。」
僕は聞こえないくらい小さな声で答えた。
そして、その翌日大事件が起きた。
祈りの塔が何者かの手によって爆破されたのだ。
「うそだ……」
テレビに映っているあの広場は
僕の知ってる広場では無くなっていた。
その後、お父さんからこのバラトという
街について色々な話を聞いた。
昔、フェザン王国は
二つに分かれて大戦争が起こり、
その結果ノイエランという国が生まれてしまい
完全に絶交してしまったみたい。
でも、元々は一つの国なんだから
仲良くしなきゃいけないと大人達が頑張って
二国の間にバラトという交流街を作ったんだ。
ここだけ二つの国は仲良しで
ここなら喧嘩することもない。
それはとても良い事だし
大切な事だと思った。
でも……
僕は布団の中で中々眠れずにいた。
―― 4 ――
それからバラトの雰囲気は一変した。
あの平和で楽しかった光景は既に無く、
奇跡の街はただの国境線になってしまった。
「明日にでもここを出るから
引越しの準備をしておきなさい」
お父さんは電話先でそう言った。
僕は動揺した。
日常がこんなに簡単に壊れる事に。
そしてお姉さんの言葉を思い出した。
何でここが奇跡の街と呼ばれているか。
「お父さん、何で塔が破壊されたの?」
「うーん。大人の世界には色々あってね
仲良くしたくない人もたくさんいるんだ。
とても悲しい事だけどね」
「そうなんだ……ここの人達はどうなるの?」
「わからない。僕達はすぐ逃げる事が出来るけど、
ずっとここに住んでいるバラトの人達は
これからどうなるんだろうね」
「……」
テレビに映る壊された祈りの塔を見て
僕はいても立ってもいられなくなった。
最後にお姉さんに会いたい。
会って謝りたい。そしてお別れの言葉を伝えたい。
僕は家から飛び出した。
会えるかどうかなんてわからないけど
今すぐあの広場に行かなくてはいけない。
そう。これは最後のチャンスなんだ。
いつもとは違う慌ただしい街の中、
僕は広場に向かって走っていた。
通行人のおじさんにぶつかって謝りながら走った。
転んで膝から血が滲み出ても気にもならなかった。
とっくに足は痺れるほどに疲れていたけど、
それでも構わず僕は走り続けた。
お姉さんに、最後にもう一度会いたい。
それだけを願って……
そして僕は広場についた。
あんなに穏やかだった広場も物々しい雰囲気に包まれ
祈りの塔には立ち入り禁止のテープが張り巡らしている。
そして、その塔の前にお姉さんは立っていた。
「良かった。来てくれたんだ」
お姉さんはいつもと変わらない笑顔で言った。
「あ……」
何故だろう。お話したいことがいっぱいあった筈なのに
実際にお姉さんを見ると何も言えなくなってしまった。
「聞いてるよ。あなたの国、退避指示出したんでしょ?
会えるなら今日が最後のチャンスかなと思ったんだ」
「うん……あの、お姉さん」
「なあに?」
「えっと。ごめんなさい……」
「いいのよ。あなたが謝る理由はないんだから
でも、ありがとう」
お姉さんは僕の頭を撫でてくれた。
懐かしい匂いが鼻をくすぐった。
「ねぇ、あなたにあげたい物があるんだ。
手作りだから少し形が悪いかもしれないけど」
お姉さんはポケットからペンダントを取り出した。
ノイエランのペンダントと似た形だけど
そのペンダントには緑色の綺麗な石が入っていたんだ。
「お姉さん。こ、これは……」
「お友達の印だよ。同じ物を二つ作ったんだ」
ちょっと照れながら同じペンダントを見せてくれた。
お姉さんはペンダントは決して悪い物じゃない事を
伝えようとしているんだと思った。
緑は僕とお姉さんが好きだと言った色。
そのきれいな緑色がそれを示しているように思えたんだ。
「うん!ありがとう宝物にするね!」
というとお姉さんはとても嬉しそうに笑った、
「良かった……ね、忘れないでね?
やはり違う国だからこうやって喧嘩する事もある。
でも、私達みたいに仲直りする事も出来るのよ」
お姉さんは話を続ける。
「私ね?楽しそうに街を歩いているあなたを見て
本当に嬉しかったし確信したんだ。
いつか二つの国は仲良くなれるって」
うん!と僕は強く頷いた。
「だから私は、いえ私達は頑張ってこの街を守る。
バラトを作った私のおじいちゃんの意思を受け継ぐ。
この2つのペンダントに誓ってね」
お姉さんは青と緑のペンダントを握りしめる。
「だから忘れないでねこの街の事を。
そしてまた会いましょう。ここで。きっと!」
「うん!約束するよ!絶対ここでまた会おう!」
僕はお姉さんと最初で最後になるかもしれない握手をした。
―― 5 ――
翌日、僕とお父さんはフェザンへの列車の中にいた。
昨日まで住んでいた街が見えなくなっていく。
途中、テレビでしか見た事のないロボット、
アーマードマシンがお姉さんの街に向かっていく。
僕は茫然とその光景を見る事しか出来ない。
少しずつ風景がいつも見知った懐かしい、
だけど少し退屈なモノに変わっていく。
ワクワクしたバラトでの日々は
段々と過去のモノへとなっていく。
本当に戦争になってしまうのだろうか。
また2つの国は絶交してしまうのだろうか。
でも、僕は諦めたりしない。
今からいっぱい勉強をしてこの国を変えて見せる。
だって、バラトで再会する事をお姉さんと約束したから。
僕は緑のペンダントをギュッと握りしめた。
ペンダントから微かにお姉さんの匂いがした。
―― 終わり ――
※ 以下、設定と世界観になります。
―― 物語のコンセプト ――
緩衝地帯での少年と女性の
出会いと別れを描く。
登場キャラクターは3人、
ショートショート作品
レガシアスの数十年後の話。
世界観は密接に連携している。
メカは出るが戦闘シーンは無い
ベタな感じで話を進めたい。
イメージ作品
・ガンダム0080
・ペンギンハイウェイ
・ブーンは歩くようです
世界観ーーー
フェザン王国で勃発した
クーデターは失敗したものの内紛化。
最終的に国は二分されてしまう。
侵攻派は隣国との国境線近くにある
海洋都市を首都として
独立国家「ノイエラン」を宣言した。
フェザン、ノイエラン、隣国との関係は
混迷を極めたが10年で鎮静化。
不安定ながらも日常を取り戻す、
その後、ノイエラン領にある小さな街、
バラトがフェザンとの交流エリアとして
解放され両国の人的、物的な交流が始まる、
二国の友好と共存を願い、様々な困難の末、
成立させたバラトは『奇跡の街』と言われた。
ノイエランはフェザンと比べて
領土は極めて狭く、隣国から
資源等を融通して貰う必要があり、
引き換えに軍事技術を提供していた。
また、ノイエラン国は軍事色が強く、
富国強兵を目的とした様々な制度を作った。
そのうちの一つが国民の階級化である。
国民は20歳になると知能、体力の
各種データを国に提出し、血統も
考慮した上で階級が決定される。
なお、等落ちもあり得るので
向上心と努力が必要である。
1等国民→支配階級
2等国民→官僚階級
3等国民→生産階級
国民の証としてペンダントが配給され、
外出時には必ず着けないといけない。
等級により色が変わる。
1等→青、2等→黄色、3号→赤
また、選定前と選定後の2パターンがある。
原則として同等級との結婚しか許されない。
しかし、国民が制度に馴染んでいる事と
強権政治では無かった為、不平不満は少なく
穏やかな生活を送っている。
―― キャラ設定 ――
・カトル・カディン 男 10歳
フェザン王国民。
親は駐在武官(実は特殊情報機関)であり、
バラトへの異動に同行する。
興味心旺盛でよく父に付き添い
新しい土地に行くのを好む。
趣味は散歩と現地の装飾品集め。
・お姉さん 19歳
ノイエラン1等国民。
名前はノレイン・ラ・バラト
バラト設立者の孫で明るい性格。
誰とでも分け隔てなく話せるが
多少の選民意識を持っている。
キョロキョロと街並みを目を輝かせながら
見ている少年に興味を持ち声をかける。
奇跡の街と青いペンダント TEKKON @TEKKON
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