僕のイキカタ

「ぐっ、くはっ」




依然として闘いは劣勢。あれから三回【強弓】【火矢】【四矢】のコンビネーションで攻撃を繰り返したが与えられた傷は浅く、逆にダメージを食らってしまう。




「こなくそっ!! 【強弓】【火矢】【四y……】え? どうして……?」




突如【四矢】が発動しなくなった。視界の端に浮かんでいたステータスウィンドウを見れば、SPが切れている。




「シッ!」




【強弓】オンリーのバフを載せた火の矢が放たれるが、威力もなければ物量も無い攻撃が通る筈もなく……少し羽毛を焦がしただけで目に見えるダメージは無い。




「チッ、ポーションも……」




インベントリを漁ってみたものの、SPポーションはもう三本全て飲みきった後。




「クエェェェェェェ!!! 」




氷カラスは羽を広げ、未だ途切れる様子無く弾丸を放ってくる。




「魔力切れも望めないか…… これは死んじゃうなぁ」




別にこのクエストは、死んじゃ駄目な訳じゃな


い。


デスルーラで街に戻って、コイツの情報をギルドへ提供すればそれでクリアだ。後は高位の冒険者がどうにかしてくれるだろう。




そう、『死んでしまえば早い』のだ。




でもそれでも、僕は死ねない。コイツと戦い、死を覚悟して僕は思った。思ってしまった。




故郷の続きで……冒険の続きで【死】を選択肢に入れるのは、違うんじゃないか?


前世では全てが一発勝負。そのスリルが僕らを育てた。楽しませた。




「僕は……死ねない!! 」




あぁ、きっと僕は馬鹿なんだろう。こんな強敵を前にして縛りプレイなんて。それも実現の可能性は殆ど零だ。




「でも、それでも! 」




弓を背負い前に出る。目指すは一点宙に浮かぶ奴の下を通り抜けた向こう側。


あんな巨体じゃ、きっと小回りは効かないだろう。


一瞬射線からずれればきっと勝機はある。




「おっらぁぁぁぁ!! 」




氷弾の隙間を走り抜けスライディング。奴の真後ろに出れば立ち上がり全力疾走する。




「クエェェェェェェ!! 」




今さら振り返ってももう遅い。予想通り、180度旋回するのには時間がかかって……僕はもう鬱蒼と繁る木々の中。




「クエェェェェェェ!!! 」




バキバキバキッッ!




氷弾は木々を折り倒していくが、木々が盾となって僕には当たらない。




「クエェェェェェェ! クエェェェェェェ!」




走り続ける。街とは反対派側に出てしまったため、迂回するように円を描いて走り続ける。




「はぁ、はぁ……」




全力で走り、二キロ程走ったところで立ち止まった。もう氷カラスの姿は見えない。




「やった……逃げ切った……」




確かな達成感と、敵前逃走への苦々しい気持ちが混ざりあい、変な気持ちがする。でも、僕はあくまで冒険者だ。武人じゃあない。




「終わりよければ全てよし。待ってろ馬鹿カラス……次は必ず仕留めてやる! 」




『撤退戦の終了を確認。経験値を獲得。LVが15に上がりました。スキル【早射】【振返射パルティアンショット】【風矢】【氷矢】【雷矢】【火球】、称号氷鴉の相対者《殿》《絶望を味わいし生還者》を獲得しました!また、種族、職業が進化します。進化先を選んで下さい』

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