プロローグ2
形式的にリーダーである僕が、まず扉を少し開ける。そして一歩後ろに下がり、ライアンとスイッチ。
「敵戦力、確認お願い! 」
ライアンにスキルの発動を指示する。
「あぁ、今視る! 【看破】!」
この世界の生物は職業や才能、種族などにあわせて特殊な力【スキル】が発現する。
これは大なり小なり生身で可能な事とはかけ離れた、神の加護とも言うべき能力だ。
今ライアンが使ったのは【看破】のスキル。対象のスキルや大まかなステータス、種族が視えるというもので、ダンジョン攻略には不可欠。何度命を救われたかわからない。
でも……
いつもならすぐに大まかな敵の情報を報告、相性の良いスキルを用意…… そして戦闘って流れなんだけど、今日はその報告がすぐに来ない。
「……!?」
「ライアン、どうした? 敵はなんだった?」
後ろから見るパーティーメンバーライアンは何故か震えていて…… 呼び掛けても返事がない。
意を決して、もう一度呼び掛ける。
「ライアン? どうした?」
「………………………………………………悪魔だ」
「……え?」
絞り出す様に発された小さな声を脳が処理仕切れずに、思わず間抜けな声が漏れる。
そんな僕に対し、今度は怒号が発せられた。
「悪魔だっ! 逃げるぞ!」
"悪魔"それはモンスターよりもより邪神に近い存在。ゴールドの上、プラチナ級ですら戦えば危ういと言われる化け物。人類の天敵。
『出会ったら命を諦めろ』なんてギルドでは教えられる、最悪の存在だ。
でも何故ここに?
高位ダンジョンではたまに出現するらしいけど……
ここは低位も低位のダンジョンだ。明らかにイレギュラー。
「悪魔が何故こんな小さなダンジョンに!」
思わず漏れた疑問を、軽く頭を降って飛ばす。今その思考は"無駄"だ。命に関わる。
「 ……ユミ、聞こえたね? 撤退するよ!」
「え、えぇ。ここで覚醒、悪魔を仕留めるってのはとても転生者っぽいけど……」
「何言ってるの! 今は冗談なんていらないよ!」
「解ってるわよ! 引っ張らないで、自分で逃げれるからぁ! 」
僕はユミの裾を掴み、洞窟を一目散に逃げ出した。ライアンが付いてきている事も、耳で確認することができる。
走りながらも、僕は今後の事について思考を巡らせる。
……どうしよう。冒険者としても、貴族の端くれとしても民を守ることは必須。街への誘導は悪手か?
……いや、ここで戦っても確実に勝ち目は無い。街に悪魔の出現を伝え、防衛線を整える方が現実的。
……やっぱり撤退が一番現実的。
その中でも僕が殿になっての撤退がベストか?
うちの魔弓奥義なら二人が上へ戻る程の時間は稼げる筈。
僕自身はまぁいいだろう。民の為に死ぬ覚悟は冒険者になった時から、いや貴族として生を受けたその瞬間から ……ずっと持っている。
反転して弓を構えよう、そう考えた瞬間……
「……って……うっ!」
―――――ガゴンッ!
背後から音が響いた先手を取られた。思考は強制的に中断され、思わず耳を塞ぎながら受動的に振り返ってしまう。
そこで僕らは……
原型を留めない程に破壊された金色と…… 紫色のヒトガタを見た。
「ほははぁ! わざわざ殺さぁれに立ち止まぁってくれぇるとはお優しぃい! 」
ヒト語を喋る、ヒトの形をしたヒトではないソレは更に続ける。
「わたしぃは、魔王様直参のぉ悪魔! バロン・サンタノスとぉもうしぃまぁす! 以後、おみぃしりおきぃお! って、以後ぉなんて無かったぁですね! ほははぁ! ほ、ほほほはははあ!」
こちらを嘲笑うソイツは、自らをバロンだと名乗った。
悪魔にも爵位があり、それが強さを示すことは僕も聞き知っている。
男爵バロンは運良く、階級の中では一番下だ。でも、腐っても悪魔。侮ることは不可能。
「ユミ、ライアン…… 逃げろ! ここは僕に任せて先に行ってくれ! だから救援を…… 援軍を頼む! きっと僕は、生きて待っているから!」
アイツはまだ笑っている…… その隙を付き、僕は雷系統最高の魔法【神雷矢】を手元に発現させながら、2人に呼び掛ける。
「ライト! それは言っちゃダメ!! ……私も残る!」
「それはダメだ! 君を…… 2人を死なせたくない! 大丈夫、手はあるから。」
「………………………わかったわ。絶対に死なないで……
1分で帰ってくるから! 」
流石に1分は無理だろう。ユミの冗談が聞けるのはこれで最後かな? なんて思いつつ、そんな考えじゃダメだと自分に活を入れる。
2人が逃げる音を背に感じつつ、手に持つ弓にバフをかけていく。哄笑はまだ止まらない。
……アイツ馬鹿なのか? いや、演技という可能性は多分に残っている。
でも……
大丈夫。後は弦を引くだけ。
元は白かった雷は多彩なバフに彩られ、虹色に光り輝いている。
これなら足止めどころか……
殺ヤれる!
矢を最大限まで引き絞り、軽い吐息と共に指を離す。
「……シッ!」
神速の雷が、暗い洞窟を煌々と照らしながら駆ける。
ハッと目を見開くヤツの姿に、笑いさえ溢れてくる。
今さら気付いたってもう遅い。
神の裁きが心臓に達する
―――その刹那
……やけにハッキリと、ヤツの早口が聞こえた。
「ほはっ!? 私が楽しんでぇる間に何を! いや、いやぁいやぁ…… ちょぉっとぉ、まってくださぁいよニンゲェン! 【
醜悪な悪魔モノが何らかの呪文を唱える……
何と言ったかはわからない。でもその効果は…… 絶大だった。
「なぁかなかに良い攻撃でしぃたよぉ! でもあともう1000歩、及びませんでぇしたぁねぇ!! ほは、ほほははははぁは!」
神雷が
僕の体が
いや、ヤツ以外の全てが……
"止まった"
その時、何かが折れる音がした。
そして同時に僕は気付いてしまった。あぁ、これはきっと悪い夢だ。と。
きっと目が覚めれば隣にユミがいて……
食堂に行けばライアンや、宿のおばさん、他の冒険者がいる。今日はどんなダンジョンに挑もうかな。
早く起きなきゃ。皆が、日常が待ってる。
でも起きようとしても不快な哄笑は消えなくて……
ボーっとムラサキを見る。あぁ、なんて毒々しい悪夢。
「うぅん? 壊れちゃいましぃた? 現実逃避中のとぉころ、ごめんなぁさい? あなぁた急にどうしぃたんですぅか! これぇが夢なぁわけ無ぁいじゃないぃですぅか? ――――だってほら、この世界はこんなにも楽しいのだから。はは、ははははははは!!」
先程とは違い、甲高い哄笑を続けるソレを虚ろに視界に納める。あぁ、やっぱ夢だな。敵にしては隙ばかりじゃないか。
でも…… どうしても届くイメージが浮かばない。どうしても逃がしてくれない。
……時は止まっている。僕はまだ起きない。
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