たとえ僕が死んでも
百葉箱
たとえ僕が死んでも
たとえ、僕が死んでも君は一人で生きれますか?
たとえ、僕が死んでも君は笑っててくれますか?
たとえ、僕が死んでも君は幸せに暮らせますか?
僕にとって君は僕の人生の全てでした。だからこそ君には僕のことを忘れて未来を見てほしい。欲を言えば君ともっといろんなところへ行って思い出を作りたかったな。もっと生きたかった。もっと話したかった。もっと一緒にいたかった。もっともっと君の笑顔が見たかった。君を幸せにしたかった。今までありがとう。最愛の人。僕は旅立つよ。だからせめて僕の分まで幸せでありますように。
その手紙の文字は滲み、彼女はそれを握りしめ泣きじゃくった。そんな雨の日だった。
3日前 始まりの公園にて 夕暮れ
公園のベンチに一つのカップル。その雰囲気はいかにも重苦しい。男は遠くを見つめている。女は男の方をじっと見つめ、やめた。顔を下に向け、地面を見る。そこではすでにこと切れた蟻が一匹。すると男が声をかけた。
ねえ、僕たち別れよう。ほかに好きな人ができたんだ。
どうして急に。昨日まで好きって言ってくれてたじゃん。
だからもう好きじゃないって言ってるんだよ。
彼は髪を触りながら声を荒立てた。この会話の中では彼と彼女は一度も目が合わない。彼女はなにかあるのかと疑ってしまう。
嘘ついてる、だって髪触るとき嘘つくもん。
嘘じゃない。何ならこれまでが嘘だ。
そこまで言わなくてもいいじゃん。
彼女はショックで泣き始める。そこで彼はようやく彼女に目を向けた。彼の目も潤っていたが必死に隠しながら彼女に厳しい目を向ける。そしてさらに言葉の牙を向けた。
すぐ泣くとかやめて。恥ずかしいから。
うるさい。もう知らない。
彼女は立ち上がり、泣きながら駆けていった。彼はようやく涙を流し、空を見上げる。夕日はすでに沈み夜の闇が町を色づけた。
これでよかったんだよな。これで。
この男のつぶやきを聞いたものは誰一人おらず、涙とともに夜の海に沈んでいった。
2日前 病室にて 深夜
夜が来るのが恐ろしい。明日には目覚めないかもしれない。このまま忘れ去られるかもしれないと思うと人生って何だったんだろうなと思う。みんなはどうして死ぬために生きているのだろう。笑えない。病室の静けさが僕を襲う。白い部屋がさらなる寂しさを与える。彼女からの連絡だって返したい。返したら彼女はきっと悲しむ。だから知らないままでいてくれ。そして僕はそれを書いた。
1日前 学校にて 昼
彼が来ない。あの日から学校にすら来ない。何かあったのではないか。そうしたざわめきが心を支配していく。声がうるさい。授業の声がうるさい。友達の笑い声がうるさい。小鳥の鳴き声がうるさい。そして心臓の音がうるさい。そんなはずないかといった楽観的思考に落ち着いた。どうせ風邪だろう。彼の席を見る。一番後ろの窓側、席替えしていいなと言った彼の席が空いている。それだけで私の心もぽっかりと開いてしまった。連絡がつかない彼。ほんとに飽きちゃったのかな。そうじゃないといいな。
やっぱりもう一回会って好きって伝えたい。
病室を飛び出した僕は駆け足で階段を下る。そして、、、、血を吐いて倒れこんだ。
最後の日 雨
僕に朝は来なかった。
その一週間後
彼の死を聞いたのはその当日だった。そこから私は後悔の念に苛まれ、部屋の中で涙が枯れるまで泣いた。それが一週間。どうしてもっと聞かなかったんだろうとか、どうして言ってくれなかったんだろうとか。いくら考えても何も浮かばない。そしてその日、お葬式は家族だけで行われたという話を聞いた。せめて花だけでも手向けに行きたかったから家まで行ったけれどもそこは真っ暗で私が立ち入ってはいけないと思った。そして来た道に戻ったがそこで声をかけられた。どうやら妹さんらしい。妹さんから彼からの手紙をもらった。そして妹さんに連れられ、家に入ると、彼の親御さんもいた。彼ら家族は涙の跡を腫らせて無理やりにでも笑顔を作っていた。痛々しかった。しかし、それぞれに書かれた手紙が唯一の支えらしい。そこで私も手紙を開いた。手紙の中には紙とSDカードが入っていた。私はそのSDカードを見させてもらうことにした。一つのビデオが入っていた。タイトルは
たとえ僕が死んでも
これを見ているということは僕はこの世にはいないということなんですね。不思議な気分です。自分でも信じられません。んーっと何を伝えようかな。まずはごめんね。君を傷つける結果になってしまって。でも忘れてほしかったんだ。だけどその別れ話がいつまでも言えなくて結局君を傷つけた。君との関係が心地よかったんだ。このままずっといたかった。できれば結婚もしたかった。それぐらい好きだったんだ。俺としては2か月前ぐらいに別れる予定だったんだけどね。ごめんね。いっぱいありがとうね。いろんなところ行ったよね。最初は公園から始まって、公園っていえばさ俺が告白の時に噛んだの覚えてる?あれはダサかったな。黒歴史。デートの時とかもさ君が大寝坊して家まで行ったのまだ覚えてるからね。ほかにはヒール壊れたりとか。自動ドアだと思っててそのままぶつかりに行ったとか。楽しかったね。今でも忘れないよ。いや忘れるつもりはないよ。ありがとう。付き合ってくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。こんな優柔不断で君を傷つけてしまう僕だけど君のこと大好きだよ。ありがとう。そして
さようなら
そこでメッセージは終わっていた。外の雨の音が私たちの泣き声を消してくれていた。
49日後
なんで先に死んでんの、ばか。もっとしたいことあるのに。もっと行きたいことあったのに。もっと話したいことあったのに。好きだよ。今でも好きだよ。ずっと好きだよ。ありがとう。ありがとう。ありがとう。また来るね。
彼女は手紙を握りしめながら墓の前で泣いた。そんな晴れた日だった。
たとえ僕が死んでも 百葉箱 @sunbox85
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