第56話 やはりこの反応が普通らしい
「実は俺には同居しているひ人がいるんです」
「・・・ご家族とかではなく?」
「両親は・・・、父は転勤族だったんですけど俺が嫌になって1人暮らしを始めました。母も父に着いていったので同居しているのは家族ではありませんし、血縁者でもありません」
「・・・」
なんでこの話を綾奈が聞いているのかはともかく、鳴海先生は少し驚いているようだった。
でもまぁ今の時代ルームシェア・シェアハウスとかもあるし、そこまで深刻にならなくても良いとは思うけども。
そんな俺達をよそに佐々岡先生は、買ってきてくれた荷物を全て片付けて鞄を持って優里さんの部屋へと向かった。
「・・・で、その子も風邪を引いたっていうことなんだよね?」
「そういうことです。俺も朝は体調が悪かったのでSOSを出したんです。親が佐々岡先生と知り合いだったっている事もあって、頼みやすかったっていうのもあります」
一応納得してくれたようだ。しかしまだ肝心なことを話していない。頭から抜けていてくれたら良かったのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。
「その子は同じ学校の子?」
「えぇ、そうですね。おそらく先生もよく知っている人物だと思います」
「あの部屋にいるの?」
「いますよ。見に行くこと自体は本人に許可を取っています。しかし大声は出さないでくださいね」
「わかったわ」
鳴海先生はしっかりと頷いてソファーを立った。佐々岡先生を追うように優里さんの部屋へと入っていく。
「大声出さないと思う?」
「思わない。絶対デカい声で悲鳴なりなんなりをあげるに学食1回分」
「私もそっちに賭けるから賭けは成立しないね」
「ふざけんな、お前はあげないに賭けろよ」
「だいたいノブ君学食なんかに頼らなくても優里ちゃんに作って貰えば良いじゃん」
「弁当の担当は俺だからそれは無理だ」
“はぁ?”って綾奈に言われたがそれは最初に決めた約束通りだ。それに優里さん、朝は俺の倍以上忙しそうにしている。その上に弁当まで作って欲しいなんて絶対に言えない。
直後、背後の部屋から
「はぁぇぇぇ!? 何で一色さんがここに~!?」
といった悲鳴に近い何かが聞こえてきた。
「だから言っただろ?」
「私も言ったよね?」
俺達がため息をつくのと同時に佐々岡先生の怒る声が聞こえてきた。さすが保険医だ。こういうときだけ頼りになる。
そしてつまみ出された鳴海先生は元の位置へと戻ってきた。
「ななな、なんで一色さんと同居なんてしてるのよ!」
「まぁ深い事情があるんですよ。あの時ほど自分の無力さを感じたことはない」
しかし後悔もしていない。何もなかった高校生活が3年目にして大きく変わったのだから。
「な、なにがあったの?」
「先生は優里さんのご実家のことをご存じですか?」
「えぇ、一色フーズを経営されているよね?それが何か?」
「実は俺も最近知ったんですけど、俺の父親がその会社の副社長、優里さんのお母様の相談役だったらしいんですよ。そこで優里さんがこのままでは世間知らずになってしまうと心配した優里さんのお母様は父に相談したんです。そしたらこうなりました」
「・・・話はしょってない?」
「そう思うでしょ?でも事実なんです。俺は急にこのマンションに引っ越して、ある日突然優里さんが執事をつれて訪ねてきて一緒に住むことになっていると聞かされました。断れると思いますか?すでに堀は完全に埋められていたのに気がついたのはその時でした」
あまりに突拍子もないことだと改めて思う。しかし今日まで上手くやれているのだから、父たちの目は正しかったのだ。
「昨年までは車で来ていた一色さんが急に電車に乗り換えたっていうのは」
「実家に極力頼らないっていう話ですからね。一般に慣れるのであれば電車に1人で乗れなくては」
「それで2人は?」
「付き合ってないんだよねぇ~私も秀ちゃんも不思議で不思議で」
とりあえずクッションを顔めがけて投げておいた。
“ヘブゥッ”という声が聞こえて後ろにのけぞっている。ジャストミートだ。ナイスコントロール!
「まぁそういう関係ではないんですよ。ですから、今後も静かに見守って頂ければありがたいです。そして何か面倒なことが起きた際には“是非とも”協力して頂きたいですね」
「是非ともの強調がすごい・・・。でも最初に約束したからね。どこまで力になれるか分からないけど私に任せて!」
正直あまり当てにならないと思っている俺は酷い男なのだろうか。まぁ現状五月丘高校で一番生徒に人気のあるっていうステータスは今後使えることがあるかも知れない。
鳴海先生を特殊な協力者枠として迎えることは決定した。
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