第57話 波乱の看病はお気に召したらしい
「熱も下がっているようだし、咳もそこまで出てないから安静にすること。あとは夜ご飯食べた後にこの薬を飲ませること」
佐々岡先生は1つの風邪薬を机においてキッチンへと向かっていった。風邪薬にはしっかりと佐々岡医療化学と製造元が書いてあった。ホントにちゃっかりしていると思う。
そして綾奈と鳴海先生は優里さんの部屋でおしゃべり中だ。色々キャパオーバーな内容だったが鳴海先生もまた協力者へなることに同意してくれたのだ。
まぁこのくらいならいいだろう。っていうか優里さんが許可したのだから、俺がとやかく言うことでも無い。
「それにしても鷹司、お前よくその状態で一色さんの看病なんてしていたな。本当はかなりしんどかったんじゃないのか?」
「まぁ・・・、でも身体は動きましたし飯も腹に入りましたからね。おそらく優里さんほどでは無かったと思いますよ」
“ふーん”という特に興味のなさげな返事が聞こえてきた。というかさっきからきっちんで何を作っているのだろか?
まだ少し重い身体に鞭を打ってキッチンに向かってみた。そこには言動からあふれ出るがさつさからはほど遠い景色が広がっていた。
「先生、料理できたんですね」
「お前は私を一体何だと思っているんだ」
「っていうか良いんですか?鳴海先生や綾奈がいるのにそんな口調で。聞かれたら面倒じゃないですか?」
俺はそう言いながら冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出す。
「それもまぁしんどいしなぁ。こうやってフランクに鷹司と話している方が気が楽だし」
包丁でネギを切る音がリズムよくて心地良い。鍋の方ではおかゆも出来ている。完成間近だ。
「って聞いているのか?」
「すみません。おかゆの出来具合見てて聞いてませんでした。あとネギを切る音と」
「・・・全校生徒にばらそっかなぁ」
「冗談です。先生が俺のことそんな風に思ってくれていて嬉しいですよ。でも俺優里さん一筋なのでごめんなさい」
先生のこめかみがピクッと動いたのがわかった。これは先日同様やり過ぎたらしい。しかしコレに関しては佐々岡先生にも非がある。突然むず痒くなるようなことを言うのが悪いのだ。
だから変に俺が気を遣う羽目になったに過ぎない。
「冗談はさておき、そろそろ完成するぞ。一色さんにいますぐ食べるか聞いてこい」
「かしこまりました~」
語尾が強くなっている。余計なことを言わずに俺は優里さんの部屋へと行った。
中に入るとなにやら少し盛り上がっていた。綾奈と鳴海先生が、だ。
肝心の優里さんは眠っている。2人はあろうことか優里さんの寝顔をスマホで写真におさめているのだ。綾奈はまだ友人として許される範囲だろうが、教師は駄目だろ。
後ろからこっそり忍び寄ってかがむ2人の上からスマホを奪い取り慣れた手つきで寝顔写真を全削除だ。
実はこの技、秀翔が俺と優里さんの登校している姿を盗み撮りしていたため身につけたものだ。こればっかりは相当役に立っている。今度そばをおごってやろう。当然一番安いやつ。
「これでよし」
「あぁ~!ノブ君なにすんの!?」
「そうだよ!折角こんなに尊い寝顔だったのに!?」
このバカ2人にはしっかりとしたお仕置きが必要だと思った。まず1人目。
「佐々岡せんせ~、鳴海先生が優里さんの安眠の邪魔をしていました~」
『何!今すぐこっちに連れてこい!』
「ちょ、ねぇ!?」
断固としてここから動かない鳴海先生にしびれを切らして佐々岡先生自らやって来た。そして連れて行かれた。
まぁ向こうは向こうで良い感じにお仕置きしてくれるだろう。
さて問題はこいつだが・・・。可哀想に鳴海先生の惨状をみて壁に張り付いてブルブル震えてしまっている。さっさとお仕置きを済ましてしまおう。
「さて、覚悟は良いかな?」
「い、いやぁ~~~!!」
ちなみに優里さんに配慮してここまでのやりとりは全て小声でやっている。
綾奈は髪の毛ボサボサの刑に処し、部屋から追い出した。
「あ、起きましたか?騒がしくして申し訳ありません」
「いえいえ、目を瞑っていると楽しい声が聞こえてきて辛くなんてありませんでした。ありがとうございます」
随分と声が出るようになってきている。とりあえず一安心だろうか?
「夜ご飯はどうしますか?佐々岡先生の特製おかゆがありますけど」
「・・・」
「ちなみに食べないという選択肢はありません。ちゃんと食べて薬も飲んでしっかり寝て明日治るようにしましょう」
「今から食べても良いですか?今ならなんだか食べれそうな気がします」
「わかりました。では用意してきますね」
優里さんの部屋から出ると、リビングでは既に帰る用意をしている3人がいた。
鳴海先生はちょっと凹んでいる。しっかり説教を受けたようだ。
綾奈は俺を見て化け物を見るような目で見てきやがった。自業自得だ。
「私達はこれで失礼するわ。もし明日も完全でないのなら連絡をちょうだい。小野先生には私から伝えておいてあげるから」
「ありがとうございます」
3人は優里さんが夕食を食べる前には帰って行ってしまった。なんだかんだあるとはいえやはり人が急にいなくなると寂しいものだと改めて感じたのだった。
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