第55話 予定外の協力者が増えるらしい

 本来ならばそろそろ放課後になっている頃だろう。

 昼休み中に佐々岡先生に看病をお願いしたから、俺達を見放さない限りは今日という日を乗り切ることが出来るだろう。


「優里さん、大丈夫ですか?」


 声をかけながら部屋に入ると、返事はなくただ手をフルフルと振っている優里さんがいる。

 今日は1日ずっとこんな感じだ。俺も今朝は身体が重くて咳も鼻水も止まらず、まさに地獄だったが飯を無理矢理食べ、薬を飲んだことでどうにか動けるくらいにはなった。

 逆に優里さんはまともに食事をとれておらず、基本的にはベッドで寝て過ごしていた。


「目、覚めたんですね。実は昼頃に佐々岡先生に看病要請をしたんですけど、ちょっと問題が発生しまして・・・」


 喉が痛いのだろうから返事は待たない。こっちを見てくれた時点で話を聞いてくれているのだと分かるから、続きを話す。


「綾奈が余計なことを言ったんで、佐々岡先生と一緒にこの状況を知らない人が着いてきます。本来なら隠さなければならないところですが、優里さんに現状無理をさせることは出来ないので、しょうがなくその人も巻き込むことにしました」


「・・・ったい、だれ・・・で、しょ・・・か?」

「鳴海先生です。どうやら俺が佐々岡先生に連絡しているところに居合わせてしまったようでして」

「・・・かり・・・した」


 ところどころ声が聞こえないのは、喉が枯れているからだろう。ただ、何を言いたいのかは伝わるし、それにスポドリとかも頼んでおいたから明日明後日には良くなっているだろう。


「とりあえず氷枕入れ替えておきますから、頭を上げてください」

「ありが・・・ざ・・・ます」


 頭が浮いている隙に使用済み分と今だしてきた分を入れ替えた。


「ではゆっくり休んでくださいね。ご飯が出来たら持ってくるようにします。おやすみなさい」


 小さく頷いた優里さんの頭を一度軽く撫でてから俺は部屋を出た。

 その直後だ。フロントからの電話が鳴る。どうやら見捨てられなかったようだ。


「はい、鷹司です」

『鷹司様のお客様がいらっしゃっていります。如何いたしましょうか?』


 カメラを確認するとやはり佐々岡先生1人ではなかった。というか、予想外の3人という来客だった。

 まぁ帰って貰うという選択肢はないから仕方がない。


「通して貰って大丈夫です」

『かしこまりました』


 カメラが消える直前まで3人のうち1人はキョロキョロしているのが目に入っている。これからの面倒を思うとため息が出た。

 しばらく待っていると、部屋のインターホンが鳴り響く。

 ソファーから立ち上がり玄関の鍵を開けた。扉を開けると目の前にはポニーテールがフヨフヨ跳ねている。

 俺は迷いなくそのポニーテールを掴んで引っ張った。


「痛いよ、ノブ君!?」

「よくもまぁのこのこと来れたものだな」

「だから先に謝りにきたんだよお。っていうか引っ張っちゃ駄目だってば!取れる~」

「お前の髪の毛は着脱式なのかよ!」


 手を離すと涙目の綾奈が俺に膨れっ面で抗議する。しかし抗議したいのは俺だ。綾奈が余計なことを言ったせいで、今俺は面倒な状況になっている。

 何事もなければ佐々岡先生だけが来るので済んだというにも関わらずだ。


「元気そうじゃない?」

「これが元気に見えますか?顔色めっちゃ悪いじゃないですか」


 さっき洗面台の鏡で確認したから間違いない。


「あぁ・・・確かにそうね。とりあえず上がるわ。ここだとご近所さんに迷惑だし」


 佐々岡先生の言葉に頷き、俺はさらに後ろから恐る恐る顔を覗かせている鳴海先生含めて3人を部屋にあげた。

 こんなにおどおどされるのは不本意なんだが、あの警告がしっかりと聞いているのだと思う。


「おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「お、おじゃましまーす」


 三者三様のお邪魔しますを聞きながらあリビングに案内する。綾奈はすでにMy席と化した1人掛けソファーにどかっと座り、佐々岡先生は持ってきてくれたものをキッチンで広げて整理してくれている。

 そして今回問題となる鳴海先生は最早困惑の眼差しで俺を見ている。


「何が聞きたいんですか?」

「えーっと、全部?」

「ですよね。まぁ座ってくださいよ。こうなった以上はある程度お話しさせて頂きますから。その代わり聞いた限りは俺に協力して貰います。もし守れないのであれば先ほどもいいましたが社会的に抹殺しますからね」


 なんせこっちには日本を代表する大企業の社長がついているのだ。ほぼ不可能などない。

 本気でどうするか迷っていた鳴海先生だったが、そこそこの時間を迷い抜いた結果覚悟を決めたようだ。


「いい。何を隠しているのかは知らないけど、絶対鷹司くんとの約束を守るわ」

「・・・そうですか。ではお話しさせて頂きますね」


 思いもよらぬ協力者が1人増えてしまった。

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