第37話 ゲームは初心者らしい
俺の部屋からリビングにゲームを引っ張り出してきて、すぐに準備は完了した。
ソフトも『Guns Frontier』が入っていることを確認する。ゲームを起動してコントローラーを1つ優里さんに渡した。
「私、こういうゲームって初めてなんです!」
「そーなんですね。でもそうなると、この手のジャンルは少し難しいかもしれませんよ」
そう言いながら簡単に操作を説明していく。優里さんは懸命に聞いているが、聞き慣れない用語もいくつかある。他の言い方も分からないから、とりあえずゆっくり慣れていくことにした。
「いいですか?今から相手にするのはbotといって、人間ではありません。まずは操作に慣れていきましょうか」
「はい!頑張ります!」
そのまま雑談しながら数十分が経過する。なんでも器用にこなす優里さんは、ゲームにおいてもそれが変わることはなかった。
なかなかの上達速度に驚いてしまう。
「上手いですね。ではあと少しやってからオンラインマッチに参加してみましょう。そっちの相手は正真正銘俺達と同じプレイヤーなので難しくなりますけど、それもまた慣れですからね」
「はぁ~少しドキドキします」
とか言いながら手元からはカチャカチャと操作する音が聞こえてくる。趣味が合う彼女を作ることが夢だった。これは実質叶ったのではないだろうか。
夢が叶ったことで少ししみじみしてしまう。
じゃぁそろそろ、そう思ったときとあるフレンドがオンラインになりました。と通知が来た。
その人は紅猫さんだ。
「あ・・・」
「どうかしましたか?」
「いえ、その・・・一応ユーザー名を決めておきましょうか」
なんとなく嫌な予感がした。こう・・・、なんて言うんだろうな。直感的に今日はまずいと感じた。
今優里さんは俺のサブアカウントを使っているため、ユーザー名が初期設定のままになっている。
そう、これは保険だ。
「ユーザー名ですか?なんでしょうか、それ」
「まぁゲーム内における名前だと思ってください。本名だと色々不都合がありますし、優里さんの場合さらに面倒なことになりかねないので一応です」
「どんなものでも良いんですか?」
「なんでも良いですよ。俺なんてESですし」
優里さんはしばらく黙って、唸って、悩んでいる。その状態で数十秒が経った。
「決めました!私の名前は”マナフィ”にします」
「マナフィって・・・」
「はい!水族館に行ったときに見たイルカショーにいたイルカさんの名前です。信春君との大事な思い出なので、私のユーザー名?にはぴったりだと思います」
思わずニヤけそうになるのを我慢して顔を背ける。テレビ画面を見ながらその名前を打ち込んだ。
「ゲーム上では身バレしないためにこの名前で呼びましょう。俺はES。優里さんがマナフィです」
「はい、ESさん」
と、こんな会話をしているときだった。
突如怒濤のパーティー招待の通知がなりまくる。送り主はやはり紅猫さんだった。
以前もこういうことがあった。その時は入ったが最後、紅猫さんが満足するまで大学でのストレスを散々発散された。
やれ教授がキモいだの、やれ同じゼミの男が言い寄ってきてウザいだの。聞かされているこっちの身にもなって欲しい。
しかも同じ話を何周かするんだ。どうやらそういう日は酒を飲みながらやっているらしい。
「えっと・・・信春君?」
「・・・ESです。覚悟してくださいね。ここで逃げれば、いずれ厄介なことになります。特に俺が・・・。優里さんには申し訳ないんですが、この世にはこういう人もいるんだと思って付き合ってください」
「わかりました。あとマナフィです」
「マナフィさん」
覚悟を決めて招待されたパーティーに参加する。案の定入るなりでかいため息が聞こえてきた。
「お疲れ様です、紅猫さん」
「ようやく入ってきたか、ES!」
イヤホンから聞こえるのだが、空き缶らしきものが転がる音が聞こえた。だいぶ荒れている。しかも今日はGWの真っ昼間だというのに、こんな時間から酒を飲んでいるとなると・・・。
「ん?誰かいないかい?」
鋭い!?優里さん一言もしゃべってないのになんで今の会話だけで分かるんだ。まぁ今日は優里さんにも参加して貰うつもりだったし、誤魔化しつつ紹介しよう。
「そういえばタイガーが言っていたな。ESにも春が来たと」
「はぁ!?」
「横にいるのは女だと私は予想するけど、どうなんだい?」
何故この質問に殺気が込められているのだろうか?正直めっちゃ怖い。
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