第30話 画面の向こうの彼は何でもお見通しらしい
風呂から出てリビングに顔を出すと、まだ2人はソファーに座って歓談中だった。
「じゃぁ俺部屋にいるんでごゆっくり」
そのままリビングを抜けて部屋に戻ろうとする。しかし、優里さんは慌てて立ち上がって俺の前へとやってきた。
「優里さん?」
「これ、信春君の分です。わざわざ買ってきてくれてありがとうございます」
皿にはさっき綾奈に渡した饅頭が3つ乗っていた。優里さんの頭越しに見える綾奈の顔は非常に不満げだ。優里さんに言われて渋々了解したのだと思われる。
しかも渋ると優里さんの評価が下がると思って、なんの抵抗もしなかったと見た。
俺が勝ち誇った顔をすると、中指を立てやがった。俺は目の前に優里さんがいるから何も出来ない。くっそ、自分は見えていないからって調子に乗りやがって。
「信春君?」
「え?あぁすみません。ではこれは部屋で食べますね」
「一緒にここで食べませんか?」
俺が皿を受け取ろうとしたのだが、優里さんはまだ皿から手を離してくれない。さて、どうしたものかと視線を優里さんから外すと綾奈が手でシッシと払っているのが見える。
まぁ今日は許してやろう。本来なら目の前で美味しそうに饅頭を食っていたところだ。
「ありがたいお話ですが、今日は綾奈との時間を楽しんだ方が良いです。何故かなかなか誰もこの家に遊びに来てくれませんからね」
「たしかにそうですね・・・。ではそうさせていただきます。あまり迷惑のかからないようにしますからね」
優里さんはそう言って俺に背を向ける。ここぞとばかりに俺は綾奈に中指を立ててやった。
しっかり俺の指の行方を見ていた綾奈は一瞬顔が引き攣ったが、綾奈の目の前には優里さんがいる。すぐに平静を装って笑顔に戻った。
やってやってわ。満足感を感じつつ俺は自分の部屋へと戻る。
優里さんはあぁ言ったが、このマンションの防音は半端ない。リビングの音も俺の部屋にいれば分からないし、優里さんの部屋の音もこの部屋までは聞こえない。
ようするに多少騒いでも迷惑に感じるほど五月蠅くなることはないのだ。現に俺がFPSゲームで騒いでもリビングにいる優里さんが驚くことはない。すでにその事実も優里さん協力の下確認済みである。
「さぁーて、今日は久しぶりにやるかな」
俺はP○4を起動してソフトを入れる。テレビには『Guns Frontier』と表示されている。フレンド枠を確認すると今日はクロウ君だけやっているようだ。
早速VC部屋を立ち上げてクロウ君を招待した。
「あーあーマイクチェックマイクチェック」
自身のマイクが入っているか確認していると、通知音と共にクロウ君がVCに参加してくる。
『お久しぶりですね、ESさん』
「ホントに久しぶりだよ。こんなにゲームから離れたの久しぶりだわ」
『紅猫さんもさみしがってましたよ?』
「あの人が心配なんてするわけないでしょ」
クロウ君の笑い声が聞こえた。どうやら嘘だったらしい。
あとタイガーはほぼ毎日会っているから何も心配はしていないだろう。もちろんだが俺の事情に関しては知らない・・・はずであると心から願いたい。
「今日は何時まででもやれるからな」
『では久しぶりに朝までやりますか?』
「俺は良いけどクロウ君、部活は?」
『あぁ、僕も部活やってないので問題ありませんよ。GWは正直ずっと暇です』
「そっか~。じゃぁやるか。今日は寝させんからな!」
『はい!』
そんな具合で、俺達は朝までゲームをやりこむことになった。久しぶりすぎてだいぶクロウ君の足を引っ張ったが数試合もこなすとだんだんと調子を取り戻してくる。
にしても、やはりゲームはいいものだ。特に誰かとやるのは楽しい。今度は紅猫さんやタイガーも誘おう。
『ナイスゲームでした』
「う~んGGだった。でも流石に外も明るくなってきたな」
『解散ですかね』
「そうだな。また誘うよ」
『はい、またやりましょうね。僕たちと遊んで息抜きができるのなら嬉しいです!』
前言われたことを思いだした。意外とクロウ君は人の言葉に敏感なのかもしれない。俺が色々悩んでいることを何も言っていないのに理解している。
隠していることは非常に心苦しいことではあるが、またゲームに誘えば裏切ることにはならないだろう。
「・・・まぁ気は楽になった。ありがとう」
『はい!じゃぁお疲れ様でした!』
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