第29話 気の許せる友達ができたらしい
『そば二郎』を出た後、俺は近くの店で買い物をしてきた。
と言っても特に何かが欲しかったわけじゃなくて、まぁ謂わばお土産みたいなものだ。
「あ、携帯の充電切れてんじゃん」
既に画面は真っ暗で、何をしても充電器のマークが出るだけだ。お土産があることを優里さんに伝えようと思ったが仕方が無い。
電車に乗って帰路につく。
外は既に真っ暗で、街のネオンで明るい地域を抜ければ住宅街の中を走り抜けていく。
雲雀駅に到着すると流石に降車する客はいなかった。まぁこの辺に住む人は皆自分の車を買っているのが当然だ。
俺みたいに未成年か、単純にこの辺の家に遊びに来る人くらいしか電車を利用しない。
しばらく歩いてようやく家に戻ってきた。
マンションのエントランスで部屋のカードキーをスキャンすると扉が開く。
そしてエレベーターで俺達の住んでいる階まで登り、部屋の前につくといったんインターホンを鳴らした。
別に鍵は持っているから鳴らす必要は無いんだけど、何も言わずに入ると優里さんを驚かせてしまうかもしれない。
『あ、お帰りなさい。今鍵開けますね』
「お願いします」
俺の言葉と同時に鍵が開く音が聞こえた。
玄関に入って扉を閉めて鍵も閉める。靴を脱ぐために下を向いていると、俺の目の前に誰かが立った気配がした。
「すみません、遅くなってしまいました。これ、優里さんにお土産で・・・なんでいんの?」
そこに立っていたのは優里さん、ではなく綾奈だった。その綾奈はと言うと奇妙な物を見るかのような目で俺を見下ろしていた。
「・・・ノブ君、優里ちゃんと2人のときはそんななんだ。ふーん」
「今10時回った頃だけどなんでお前いんの?」
「これは秀ちゃんに報告した方が良いかもしれない」
「ねぇ?俺の話聞いてる?」
俺達が玄関前でいがみ合っていると、リビングの方から優里さんが出て来た。
「2人で一体何をしているんですか?あ、お風呂沸いているので信春君も入ってくださいね」
「ありがとうございます。では荷物置いたら入りますね」
優里さんは頷くとまたリビングの方へと戻っていった。
「なんかもう2人夫婦みたいだよね」
「馬鹿なこと言ってないでそこどいてくれる?俺風呂入るから」
「え~もう少しお話ししようよぉ~」
面倒くさいやつだ。しかし偶然とはいえ綾奈を操る手段を俺は持っている。
「これ持って優里さんと大人しく食べときなさい」
「まっ、まさかこれは!?」
「あぁ五行通りの脇にある小道で不定期にやっている『アヒル堂』の饅頭だ」
「え!?今日開いてたの!それはお手柄だよ!!」
こんな具合に綾奈を操ることは容易い。特に秀翔がいなければ、これほど思うがままに操ることができるのだ。
俺の手に合った袋を引ったくってリビングに走って行った。これで俺に投げかけていた疑問はうやむやになったはずだ。
部屋に戻ってとりあえず携帯を充電しておく。リビングに一声かけてから俺は風呂に入った。
にしても優里さん、綾奈と随分楽しそうに話していたな。
学校でも3年生になるまではあんな風に誰かと親しそうに話しているところを見たことがなかった。
対等に話していたのは生徒会長の八神大晴くらいだろうか。
だから綾奈には感謝している。もちろん優里さんに関してだけだが。
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