第24話 ペンギンを飼うつもりだったらしい
「わぁ~カワイイですねぇ~」
「ホントにカワイイです」
こんなにかみ合っていない会話があるのかと思ってしまう。
優里さんはガラスの向こう側にいるジュゴンを見て言っているのだろうけど、俺は優里さんのことを言っている。
本人が気がついていないのだから、実質言いたい放題だ。
「それにしても、ここはたくさん飼育しているんですね」
「そうですね。この辺では1番大きい水族館ですから」
入り口で貰ったパンフレットを見ながら頷く。にしてもここは本当にデカい。どこから見に行くか本気で迷うわけだが、絶対押さえておきたいイベントは数個あった。
「優里さん、そろそろ行きましょうか」
「次は何を見るんですか?私しばらくジュンちゃんを見ていたのですけど」
ジュンちゃんとはまぁ分かると思うが目の前で泳いでいるジュゴンのことである。しかし本当に良いのだろうか?俺が今行こうとしているのは、この水族館目玉のイベントの1つであるのに。
「ペンギンの散歩見なくても良いんですね?」
「え!?見に行きます!」
バッと振り向いた優里さんは俺の手を掴んだ。それにこっちが驚かされる。
って言うか、今言うことかわからないけどあえて言わせてもらおう。
実は出るときに繋いだ手、水族館に入園するまでずっと繋いでいた。入園料を支払うために手を離したわけだが、かなり名残惜しいと思ってしまった。
入園した後は優里さんのテンションが上がって、さきさき行ってしまいまともに話せていない。それだけは非常にもどかしかった。
「あ、あそこに人が集まってますよ。信春君、行きますよ!」
「ちょっ!?走ると危ないですよ」
「大丈夫です!」
優里さんは器用に人の隙間をくぐり抜けて、最前列にまでたどり着く。残念ながら俺は優里さんの背中が見えるくらいで、ペンギンの方は見えない。にしても手は繋がれたままなのだが・・・。
「あっ信春君!ペンギンですよっ、ペンギン!はぁカワイイ~」
残念ながら優里さんの背中しか見えない俺は、ハイテンションな優里さんしか分からない。まぁそれはそれで良いんだけど折角ならやはり。そう思って優里さんの方へ少し強く身体をねじ込んだ。
横にいた客が迷惑そうに俺を見たのが分かったが、その視線が手を繋いでいる優里さんへと向けられ、納得したのか微笑ましそうに俺を見始めた。
それはそれで恥ずかしいから勘弁して欲しい。
「ほ、本当ですね。こうなんか普段見ないかわいさと言いますか」
「ですよね!はぁ~癒やしですね、これは。毎日見に来たいくらいです」
「流石に毎日は無理ですよ」
俺の突っ込みを聞いて優里さんは頬を膨らませた。
「分かっていますよ。平日は学校がありますし、生徒会の仕事があれば遅くなります。イベントに間に合う可能性はかなり低いですからね!」
そうじゃないんだけど・・・。しかしここで諦めないのがお嬢様だ。
「ウチでペンギン飼いませんか?」
「は!?」
俺の驚いた声にビクッとしたのか、優里さんと繋いでいる手がギュッと強く握られた。
「あ、ごめんなさい。強く握ってしまいました」
「いや俺もデカい声出しちゃいましたし。にしてもやはりペンギンを飼うのはちょっと現実的ではないですよ」
「そうでしょうか?お母様に相談してみようかしら・・・」
俺を含め、周りでペンギンの散歩を見ていたお客さんたちはドン引きである。
「お母さんを頼っては、家を出た意味が無くなるでしょう?ここは我慢ですよ。高校を卒業してからまた考えましょう?」
「むぅ・・・仕方ないですね。あぁペンギンさん達行ってしまいましたね」
名残惜しそうにペンギンたちが歩いて行った方を見ている優里さん。そんなにペンギンを気に入ったのだろうか?俺としては最初冗談だと思っていたペンギン飼育計画、本気だった可能性を感じてやや冷や汗が流れる。
「信春君、次はどこに行きますか?」
「そうですね・・・」
優里さんは意外にももう切り替えている。この辺りの心境というか優里さんの思考は未だに読めないままだった。
「では次はここに行きましょう」
繋いだままの手を引いて俺は次の水槽へと向かった。
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