第25話 優里さんは俺の彼女になりきっていたらしい
優里さんの手を引いたまま向かった場所は、大水槽の前だった。ここには多種多様な魚たちが見られるわけだが、とりわけ人気なのが存在感を存分に発揮しているジンベイザメだ。
「わぁ~大きいですねっ!こんなに大きいと私なんて丸呑みされてしまいそうです」
優里さんの感想に周りの客がクスクス笑っている。まぁ高校生が言う感想でも無い気はするが、それでも十分カワイイ。素直な感性の持ち主なんだろう。
「ホントに大きいですね。この水族館はジンベイザメを目玉の1つに推しています。その理由も実際見に来てみると納得できますよ」
「はい。信春君に連れてきて貰って感謝しかありません。また連れてきてくれますか?」
「優里さんが望むのなら何度でもご一緒しますよ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
今水槽を横に並んでみている。チラッと横目で優里さんを見てみるとキラキラした瞳でじーっと水槽を眺めていた。
人並みの感想だとは思うが、本心でここを案内して良かったと思える。
「あ、信春君。私ここにも行きたいです!」
パンフレットを開いた彼女はまた俺の手を引いて移動し始めた。次は一体何を見に行くのだろうか。
そしてその後も優里さんの行きたいがままに色々見て回った。
時には何が面白いのか分からない水槽もじーっと見ていた。ナマコとかウミウシとかそんなに凝視していて面白いのだろうか。
まぁこういうよく分からないところも含めて優里さんだと最近思い始めた。
「そろそろ最後のイベントが始まりますよ?」
「え!?もうそんな時間でしたか?では行きましょうか」
彼女に手を引かれて最後の会場へと移動する。
屋外にある会場。中央には大きなプールがあり、それを取り囲むように客席がある。
そう、この水族館の目玉の1つイルカショーだ。
何がそこまで人気なのかというと、イルカとのふれあいが一般のお客さんでも出来るということにある。
ショーの最中にランダムで選ばれ、指名された客はステージに上がって実際にイルカに触れることが出来るのだ。
もちろん小さい子供の場合は親も同伴で上がることになる。資料映像を見る限りだと子供より一緒に上がっている保護者の方が楽しそうにも見える。まぁ誰でも楽しめるがウリなのだろう。
「信春君は立候補するつもりなんですか?」
「いやいや流石にそれは」
恥ずかしいだろ?いっても普通に高校3年生だ。小さい子がいてその付き添いならまだいける気もするが・・・。
「私、触りたいです。駄目でしょうか?」
「まぁ優里さんがしたいのならやってもいいですけど」
「本当ですか!?じゃぁもし選ばれたら一緒に上がりましょうね!」
え?あ、俺も一緒に上がるってこと?てっきり優里さんは触りたいから、もし選ばれたら上がってきますね。っていう意味かと思った。
まぁまぁまぁ、こんだけお客さん入ってるわけだし選ばれるわけ・・・。
『はーい、じゃぁそこの可愛らしいお姉さんとお隣のお兄さんのカップルさん、こちらにどうぞ~』
「やりました!信春君、私選ばれましたよ!?」
思わず頭を抱えたくなる。そんな綺麗なフラグ回収見たことがない。
横で楽しそうにはしゃぐ優里さんに、この表情を見せるわけにはいかない。
精一杯の笑顔で顔を上げた。
「凄いじゃないですか!では、行きましょうか」
手を差し出してステージに上がる階段までエスコートする。ちょっと周りからの視線が気になるが、もう今更引き返せない。
簡単にこれから行うことをレクチャーされる。まさに一発勝負だった。
ちょっと緊張する。優里さんもやや顔が強ばっているような気がする。
『は~い、お待たせしました。ではいきますよぉ~』
魚を片手に飼育員のお姉さんが笛を吹いた。プールを自由に泳いでいたイルカ達は一度大きく高く飛び跳ねた。
そして一斉にこちらに向かって泳いできて、俺達のいるステージに飛び乗りスーッと滑って俺達の前でピタリと止まる。
数人の飼育員の人たちが餌をあげて気を逸らす。
『じゃぁどうぞ~。優しく触ってあげてくださいねぇ』
「じゃぁいきます」
一緒に手を伸ばして同じイルカを撫でてみた。
「おぉ~めっちゃツルツルしてる」
「何でしょう。とっても羨ましいです・・・」
会場から笑い声が聞こえる。意外とステージの声は聞こえるらしい。
イルカの肌を少し撫でてみると、喜んでいるのか少し鳴き声が漏れる。
あ、凄いカワイイ。
『は~い。ありがとうございました。では皆さんこの2人に大きな拍手を~』
無事ふれあいを終えた俺達は最後お土産屋さんに寄って水族館を出た。
「はぁ~今日は楽しかったですね?」
「はい。ですけどもうクタクタです。夕ご飯は買って帰りましょう」
「そうですね。あ、そうだ。手、繋いでも良いですか?」
「優里さんがいいのなら俺は構いませんけど、やけに今日はよく手を繋ぎますね」
改めて思うと結構恥ずかしい。のだが、優里さんの言葉を聞いて俺は間違いなく顔を赤くした。
「だって信春君、水族館はカップルに人気だって言っていたのでやはりそういう気分になりたいのかと思って、私信春君の彼女になれていましたか?」
「・・・とっても楽しかったです。優里さん、俺は優里さんの・・・」
「はい?」
彼氏になれていましたか?そう聞きかけて辞めた。
夢は夢のままでもいい。そう思ったからだ。
「いえ、なんでもありません。では帰りましょうか」
差し出された手を握り返して帰路につく。
きっと今日という日を一生忘れることはないだろう。
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