第23話 いつもと違う彼女に動揺しているらしい
「どうでしょうか?似合いますか?」
GWの朝、今日は約束の水族館に行く日だ。
家を出るのは9時の予定。なのだが、それまではわりといつも通り過ぎていくはずだった。
しかし部屋から出て来た優里さんに見とれてしまい、いきなり日常は崩れ去る。
「似合いますよ。優里さんは何を着ても似合うので思わず見とれてしまいました」
「お世辞でも嬉しいです。実はこういった服装をしたこと無かったので、信春君に感想を言ってもらえるまでとても不安でした」
嬉しそうにその場でクルクル回る優里さんを見て立ちくらみがした。
何だあのカワイイ生き物は・・・。
「いつもはワンピースやスカートを選ぶところですけど、今日は少し冒険です」
優里さんの今日の服装は、デニムのパンツに白のブラウス。それに小さなバッグを持っている。
そもそも優里さんの私服姿をそこまで見ているわけではないが、初めてこの家に来たときは白のワンピースだったし、休日もスカートが多かった印象がある。
素人目にもよく似合っていると思った。
「それに目立ってしまうと信春君にも迷惑がかかってしまいますからね。今日は私であって私でありません」
フフンっと聞こえそうな自信満々に声に思わず笑いが吹き出る。不思議そうに俺を見る彼女であるが、それも含めてまたカワイイと思ってしまった。
「さぁ、そろそろ出ましょうか」
「はい、では今日1日よろしくお願いします。信春君」
「お願いされました、優里さん」
優里さんはシューズクローゼットから普段ははかないヒールの靴を選んでいる。
一緒に玄関を出て、マンションから出て行く。
いつもの優里さんでなくても結局人の目を引いているのだが、本人は気がついていないようだから何も言わないでおいた。
っていうか、これは実質デートなのではと思ってしまう。いや同じ家から出て水族館に行くとか、実質夫婦だと言えないだろうか?調子に乗るのはやめよう。
「それで水族館ですよね?一体どこまで行くのでしょうか?」
「雲雀駅から電車に乗って並木公園前で乗り換えます。別の線に乗って
「近江浜と言うと海の方ですね。私この学校に通い始めてまだ一度も海に行っていないんです。どんなところなんでしょう」
「海がとても綺麗ですね。夏になれば海水浴場になって多くの観光客で溢れます。またデートスポットとしても有名で、近場にある目的地の水族館もカップルが非常に多いイメージがあります」
まぁだからこれまでほとんど行ったことが無いのだ。何が悲しくてカップルを見に行かなくてはいかないのか。
しかし今日は違う。カップルではなくても、あの水族館に行っても空しい気分になることはない。これは久しぶりに楽しめるかもしれない、そう思った。
「へぇ~カップルが多いんですね。そんな場所に2人でなんて・・・」
「っと何か言いました?」
「いえ!何も言っていません。では行きましょうか?」
そう言って優里さんは俺に手を差し出してきた。ん?手を差し出してきた?
俺はこの手をどうすれば良いのか分からない。え?握って良いの?ってかそれやばくない?
しかし不安そうにこちらを見上げている優里さんを見て、躊躇う自分を殴りつける。
何を躊躇うことがあるのか。仮に優里さんに嫌われているのだとしたら、自ら手を出しては来ないだろう。
「ではエスコートしますね、お嬢様」
「!?は、はい。よろしくお願いします。信春君」
ちょっと顔を伏せられた。流石になかったか?
勝手に調子に乗って自爆して恥ずかしくなる。優里さんは下を見ていて、俺は優里さんのいない外側を向いてしまう。
これから水族館に行くというのに、いきなりこんな感じで大丈夫なのだろうか?
今日1日がどうなるのか不安に思いながら、俺達は水族館に向かうのだった。
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