第22話 オムライスを本気で作ったらしい

 今日は比較的早い帰宅になった。

 ようするに回復しなかった俺を今日は特別にと言うことで佐々岡先生が連れて帰ってくれたのだ。

 優しい先生だ。周りの生徒はそう思うだろう。

 俺も最初こそそう思った。ただし今目の前の状況を見て考えを改める必要があると思った。


「はぁ~凄いとこ住んでんのね。噂通り過ぎてちょっと引くわ」

「凄いとこに住んでるのは俺も思ってますよ。でもなんで先生に引かれないといけないんですか」

「いいでしょそれは。いゃ~これは下手なホテルよりも雰囲気でそうねぇ~。今度部屋貸してくれない?今狙っている男いるのよねぇ~」


 これのどこが先生なのだろうか?っていうか仮にも生徒がいるのだ。いいのだろうか?こんなことで。


「いいわけないでしょ。だいたい生徒がいる前で何言ってるんですか」


 そう言いながら、俺はキッチンの引き出しから非常用に買っておいたカロリーメイトを取り出して食べる。あまり食べると折角優里さんが作ってくれる晩ご飯が食べられなくなってしまう。

 一袋だけ取り出して、はしゃぎ回る先生を眺めながら食べる。


「さぁ~ひとしきり探索も終わったしそろそろ先生学校に戻るわ。また遊びに来るわね」

「なんでですか」


 俺の言葉を無視して玄関へと歩いてくる。これは間違いなくまた来るやつだ。


「それじゃぁお大事に。また明日ね」


 急に先生モードになった先生を不審に思いながら扉を閉める。外の廊下から誰かに挨拶する先生の声が聞こえた。

 本当に外面だけは良いのだと思った。

 それから数十分後、買い物袋を手にした優里さんが帰ってくる。さすがに今ではそこまで心配していないが、1人で無事帰って来れたようだ。ホッと一安心。


「お帰りなさい、優里さん」

「ただいま帰りました、信春君」


 優里さんは学校の鞄を部屋に置きに行ってから、キッチンに買い物袋を持って立った。

 そして袋の中を確認し、必要なものは冷蔵庫にしまっている。材料がチラッと見えたが、何を作るのだろうか。


「今日は初めて私だけで作る料理ということで、最初に信春君に教えて貰ったオムライスを作ろうと思います」

「いいですね。それだと簡単ですし、材料もシンプルですからね」

「はい。ですから少しアレンジして、私らしさを出せるように頑張ってみようと思います。信春君は部屋で少し休んでいてください。出来たら呼びに行きますね」


 そう言って料理に取りかかってしまった。部屋に戻れというのは、料理している姿を見られたくないということなのだろうか?まぁ優里さんがそういうのだ。ここは従っておこう。


「では出来たら呼んでください。少し横になっていますから」


 正直身体はまだだるい。半分先生のせいな気もするが、腹に少し物も入れたしそのまま意識を飛ばすこともないだろう。


「はい。ではまた後で、ですね」


 今日はなかなか濃い1日だった。

 人生で初めて告白された。それもなかなか人気のある女子にだ。そして人生で初めて本気で意識を飛ばした。そして優里さんが初めて手料理を作ってくれる。

 部屋に戻った俺はそのまますぐに寝てしまった。疲れていたのか何なのか。いやたぶん疲れていたのだろう。色々あったからな。



 どれほど眠っていただろうか?良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 ゆっくりと目を開くと、目の前は天井ではなかった。


「はっ!?」

「きゃぁ!?」


 俺がビックリして声を上げるのと同時に、目の前のそれ・・・優里さんも悲鳴を上げた。


「何してたんですか」

「信春君にご飯が出来たことを伝えようと思ったのですけど、あまりにも気持ちよさそうに寝ていたので観察していました」


 何その返事。ニヤけそうになる顔を必死に引き締める。起こされる度にこんなことしていたら、俺の寿命がみるみる縮まってしまう。


「ルール追加でお願いします」

「なんでしょうか?」

「寝顔を観察するのは禁止です」

「・・・どうしてですか」


 そんな露骨にガッカリしないでください。意思が揺れます。


「逆に俺が優里さんの部屋に入って寝顔を見ても良いんですか?」

「私は別に構いませんよ?信春君に見られても、むしろ嬉しいくらいです」


 後半には突っ込まない。いや前半にも突っ込めない。八方塞がりじゃないか。


「良くないです。とにかくルール追加です。良いですね?」


 あまり納得していないのだろうか。頷きはしているが返事はなかった。

 そもそも俺の顔をそんな間近で見て何が面白いのか。中の中の顔面だと思うけど。それだったら八神の顔見ている方が面白いと思う。勘違いして欲しくないのは、イケメンの方が見ていて面白いという一般論なだけで、俺が見たいわけではない。


「それよりご飯ですよね?冷めちゃいますから早く食べに行きましょうか」

「あっ、そうでした。フッフッフ、ビックリしないでくださいね?」


 まぁ1回目だし、そこまで期待はしない無い。元が0に近い状態だったんだ。味が良ければ見た目は二の次だ。

 リビングに行くと既に料理が並べられている。

 そして盛り付けられたオムライスを見て絶句した。


「えっと・・・俺が寝ている間に暮葉さん呼びました?」

「失礼なこと言わないでください!全部私が作りました」

「ご、ごめんなさい」


 そこにあったのはおしゃれなレストランで出てくるのではないかというほどのオムライスだった。とりあえず見た目だけはそのレベルだ。

 黄金に輝くたまごに、ホワイトソースがかかっている。だいたい俺そんなの教えてないんだけど。


「実は最近料理部のお友達に料理を教えて貰っていたのです。色々勘ぐられてしまいましたけど、今の信春君の反応を見れたのでそんなこと些細な問題です」

「あぁだから最近帰りが遅かったわけですね」

「はい、私の事情でしたのに信春君を待たせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいでした」


 えへへ、と笑う彼女に俺は見とれてしまった。どうしてこんなに良い子なのだろうか。こんな子と一緒に生活していて良いのだろうか。それも付き合ってもいないのに。


「そういえばGWは水族館でしたよね?私すごく楽しみにしています」

「はい、俺も楽しみですよ」


 完全に忘れていた。ここまで楽しみにしてくれているんだ。当日は完璧にエスコートしなければいけないだろう。俺も誰かにレクチャーして貰おうかな。

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