第16話 新学期は出会いの季節(らしい)

 春・入学式・高校生デビュー、これらはまさに新たな出会いのきっかけになるものだと思っている。

 俺もそうだった。

 窓際の席に座るあの子に憧れの感情を持った。それは好きとか嫌いとかそんな単純な感情では無い。

 新学期早々、彼女に群がる男子どもは誰も彼女の心を射止めることが出来ず、気がつけば屍の山を築いていた。

 あまりにも告白を断り続けるものだから、実は彼氏がいるのでは無いかという噂まで出たが、結局その噂も広がりきる前に消えた。まぁ振られた奴が腹いせにやったのだろうが、普段の彼女の振る舞いに嘘がかき消されたのだと思っている。

 俺は・・・俺も告白しようとしたのだ。でも怖かった。憧れは憧れのままで・・・。俺は彼女に、一色優里に心底憧れていた。

 それは好きとは違う。付き合いたいとかそんな気持ちが無かったと言えば嘘にはなるが、それでも彼女に拒絶されることを考えれば、『遠くから見ているだけ』を選択していた。

 そんな彼女が2年後には一緒に家に住んでいる。

 まぁ告白なんてしていないし、俺から何のアクションも起こしていない。

 これは言うなれば奇跡。あとは父さんが謎過ぎたというのも一因かもしれない。

 まぁ父さんの話はどうでも良いんだけどさ、ただこれだけは言える。

 一色優里は新学期早々、またファンを増やしていたのだった。




「あの人先輩かな?」

「副会長だってさ、すっげぇ美人だよな?」

「マジか、俺生徒会入ろうかな」


 入学式の終わった五月丘高校の校内は大いに賑わっていた。主に今日から高校生になる新1年生たちである。

 そしてその多くの1年生の話題になっているのが、生徒会として1年生の案内係を務めていた優里さんだった。

 相変わらずファンを着実に増やしているのだが、そんな話題が耳に入っているだろうに一切動じず廊下を通り抜ける優里さん。


「ごめんなさい、信春君に手伝わせてしまって」

「いやいや、気にしないでください。俺が好きでやってるんですから」


 こんな具合なのだ。俺はバッチリ聞こえているぞ。あそこの遊んでそうな1年生が、「俺の彼女にしようかな」とか言っているのを。お前なんて相手にされねーよ、バーカ。一体何人のモテ男たちが涙を飲んできたと思ってるんだ。

 あと、そんな高校生デビュー丸出しなキャラは後に苦しくなるに決まってる。先輩からの忠告だ★

 1年生を横目にこんなどうでも良いことを考えながら職員室へと向かった。


「あ、2人ともありがとうございます!そっちの書類はこっちの机で、それは隣の机に置いてください」

「あの、俺のは?」

「えーっと・・・あ、これは保健室のかな」


 先言えよ、全然職員室と場所違うじゃねーか。とは口に出さない。この先生は比較的若く、きっと先輩先生の指示に従っているのだろうと思ったからだ。

 だから多少手際が悪いのは全然許容範囲。

 小野先生なら口にこそ出さないが睨んでいたかもしれないけどな。


「じゃぁ優里さん、俺はこれ保健室に持っていくので」

「私も手伝います。半分渡してください」


 優里さんは俺の持っている書類を真ん中から持ち上げようとしているのだが、別に2人で分けて運ぶほどでも無い。


「それより生徒会の仕事まだ残っているんですよね?八神も大変だろうからそっちに行ってあげてください」


 しかし優里さんは動かないし、頷かないし、反応もしない。


「八神君は別に私がいなくても困らないと思います。1人で何でもこなしちゃいますからね」

「あぁ、確かに・・・」


 俺は頼りないと思われているのが少しショックだった。まぁこちらとしても完璧超人な八神大晴と比べられるのは不本意だけど。


「まぁ行ってあげてよ。俺はとりあえずこれおいたら教室で待ってるから」

「すみません。ではお願いしますね」


 そう言って優里さんは先に職員室から出て行く。


「たしか鷹司君って言ったよね?君たち付き合っているの?」


 若い女性の教師だ。この手の話題が好きなのは分かるがある程度確信を持ってから言ってもらいたいものだと思う。

 事が事なら深い傷を残すことになりかねない。特に相手が優里さんほどの美少女であるならば。


「そんな訳ありませんよ。僕では彼女と釣り合いません」

「でも君たち一緒に電車で来てるよね?私も同じ電車に乗ってるから知ってるんだよ」


 鳴海里香ナルミリカ先生はどうやら同じ方面から電車で来ているらしい。しかしそれこそ俺達だって同じ事だ。

 偶然優里さんと同じ方面に家があり、偶然同じ時間の電車に乗っている。同じクラスだし何ら不思議なことでは無い。


「偶然ですよ。家が同じ方向なんです」

「でも一色さんって2年生まで車で送り迎えされてたはずよね?急に君と一緒に来るようになったの?」

「そこまではわかりませんね。ただまぁ彼女の家の事情を考えれば、一般家庭で育った俺には到底理解なんて出来ませんよ」


 そもそも事情を知っていても理解できない行動を取ることがあるんだ。まだ全然付き合いの無い先生が一色優里を理解できることなどありはしないだろう。


「ふ~ん、まぁ今日はそういうことにしておいてあげるわ。じゃぁその荷物保健室によろしくね」


 俺の中に要注意人物が1人増えた。





※次回投稿は21日の深夜です。ちょっともう眠くて限界です。

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