第15話 彼女はどうやら不安らしい
「あと少しで接敵するよ!」
『了解です!』
「1人はやった!もう1人は任せるから」
『了解です。前は僕が見てるんで、回復しちゃってください!』
『え、衛生兵~!』
最近流行りのFPSゲーム『Guns Frontier』を、とあるミリタリーオタクの友人の家でやったらかなりはまった。
ハードは持っていたから、ソフトをその日の帰りに購入し今は夜の空いた時間にやりこんでいる。
今VCを付けてやっているのは、そのミリタリーオタクの『タイガー』とゲーム上で仲良くなった『クロウ』君だ。
2人は完全エンジョイ勢でINしている時間に誘えば必ず参加してくる。
『それにしても『ES』君、最近IN減ったね?なんかあったの?』
ESとは俺のユーザーネームだ。由来は単純で鷹→イーグル、春→スプリングの英語頭文字を取ったかなり安直なものだ。それでも『ああああ』にしなくて良かったと思うのは、こうしてVCをつけてやる友達が出来たときだった。
「いゃ~ちょっと色々あってね」
『怪しいですな。今日も学校で何やら騒ぎを起こしていたようですしな』
「余計なこと言わなくて良いんだよ」
『心配しちゃいますよ?』
『タイガー』は同じ学校ではあるがクラスは1組と遠い。かろうじてあの騒ぎの原因を知らないらしい。
『クロウ』君は何も知らないが、話を聞いている限りだと高校1年生なのでは無いかと思っている。
にしても、クロウ君勘が鋭いな。ボロを出す前に今日は解散しよう。
「まぁ今日は解散しようよ。いい時間だし」
『話はまだ終わってませんよ。何かあるのなら相談してくださいよ』
『そうですぞ!我ら戦友ではないか!』
タイガーの口調が変なのはいつものことだが、やはりここで話すわけにはいかない。
「まぁそれもまた今度な」
「えぇ~」とか「待つでござる」とか色々聞こえてくる。VCを切ろうとしたとき、扉をノックする音が聞こえた。
ヘッドホンを外していなければ気がつかなかっただろうな。
「はい、どうぞ」
そして反射的に返事をしてしまった。
『ん?ES君、一人暮らしって言ってなかった?こんな時間に誰か家にいるの?親?』
『まさかとは思うが女では!?』
わずかに漏れ出る音声に気がつき慌ててVCを切る。
「えっと・・・お邪魔してしまいましたか?」
「いいえ!大丈夫ですよ?少し色々あってですね!?」
「あ、はい。そうなんですね?」
これはしばらくゲームから距離を置く必要があるかもしれない。
あ、タイガーは学校で会う可能性があるじゃないか・・・。
「それでどうかした?」
「いえ、少しお話がしたくて。明日まで我慢できずに部屋に来てしまいました」
優里さんが俺の部屋に入るのは、実は初めてだった。
まぁリビングで事足りるし、寝室は完全プライベートな空間だったからお互いの部屋に入ることはこれまで無かった。
それはじゃっかん暗黙の了解みたいになっていたのだが、今日はそういうのではないらしい。
「私、信春君の負担になっているのでは無いかと思いまして・・・」
ストンと座ったのは、俺が今座っているソファーの隣だった。
ボディソープの良い香りがフワッと鼻に抜ける。
っていうか、一体何をそんなに不安になっているのだろうか。俺が不満げな顔をしたことがあっただろうか?
「何故急にそんなことを?」
「私がここに住み始めてから、信春君は私のことばかりに気をかけています。私は信春君の大事な高校生活の足を引っ張っているのでは無いかと思いまして・・・」
「そんなことはないです。俺は優里さんと一緒に過ごせて楽しいですし、誰かと一緒の空間で生活するというのは久しぶりなので、毎日が充実しています。優里さんは俺と生活するのが楽しくないですか?」
「いいえ!毎日が新鮮で楽しいです。ですがそれは私の気持ちで・・・」
「俺の気持ちもさっき言いました。優里さんは俺の言葉を信じれませんか?」
一瞬の沈黙が流れた。ここまで良い雰囲気だったが、この微妙な間で一気に不安になる。信じてもらえなかったらそこまでだ。
しかしあのカフェでの一件もある。
「信じて良いのでしょうか?私、人を信じることが苦手で・・・」
優里さんは、その自身の立場上多くの人が周りにいたのだと思う。その中にはきっと邪な気持ちで近づいてきた輩もいただろう。
だからきっと素直に人を信じれない。優里さんを責めることは出来ない。
「信じてください。俺は何があっても優里さんの味方でいます。裏切りもしません。ですから」
さすがに隣にいる優里さんの手を握ることはしなかった。ここで握ってしまえば、俺の言葉に信憑性が出ないと思った。
だから目を見てしっかり言い切った。
「ですから優里さんも遠慮無くこの家で過ごしてください」
「いいんですか?また今日みたいに大変な思いをするかもしれませんよ?」
「それは今更ですね。優里さんのことがなくても俺は追いかけられていました」
まぁそんなことは無いだろうけど。
「また足を蹴られるかもしれませんよ?」
「慣れているので大丈夫です」
ドMか。
「それはそれで問題ではないのですか?でも、少し安心しました。まだ私の居場所はこの家でいいのですね?」
「えぇ、いつまでもいてください」
無言で立ち上がった優里さんは何も言わずに扉に向かっていった。俺の言葉はあっていたのか不安になった。
優里さんは扉の前で一度立ち止まり、そして振り向いた。その目は少し潤んでいるように見える。
「信春君、ありがとうございます」
俺の返事を聞く前に優里さんは部屋を出ていった。にしても、本当に何だったのだろうか?
まぁ何はともあれ、残る判断をしてくれて良かったと心底思った。
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