第14話 俺の評価は高かったらしい

「なるほどなぁ、社会勉強の一環でか」

「それでも男の家に送り込むのっていいのかな?まぁノブ君に襲う度胸があるとは思えないけど」


 事情を聞いて好き勝手な感想を述べる綾奈と、わりと真面目に考えてくれる秀翔。


「確かに俺も綾に同意するけど、それでも信用されるってノブのお父さん何者よ」

「んなもん俺が聞きたいわ。未だに父さんの口から何の仕事してるか聞いてないってのに。驚くよな、クラスメイトから父さんの仕事を教えて貰うって」

「まぁ普通は無いよね」

「無いな」


 まったく以て同感だ。

 黙っている愛里さんは、必死にカフェオレをフーフーと冷ましている。

 のんきか。


「で、どうすんの?学校には当然事情を話すわけにはいかないだろ?」

「アキケンに知られたらノブ君終わりだね。今日のこともあるし」

「何で俺だけが怒られる前提なんだよ。親を呼べよ」

「一色さん、優等生だからな。怒られるなら間違いなくお前だけだ」

「理不尽・・・」


 俺が1人項垂れていると、愛里さんがようやく俺達の会話に混ざってきた。


「そういえば保険医の佐々岡先生は、お母様の大学の後輩だと言われていました。なにか困ったときは佐々岡先生を頼りなさいって言われたのを思い出しました!」

「佐々岡先生?あぁ今年から赴任した先生だったよね?すごく若くて・・・なんか若すぎて幼い感じの先生だ」


 女子2人が言う佐々岡先生とは、今年五月丘高校に赴任してきた若い保険医だ。小柄で童顔なその容貌は若いを通り越してもはや幼いともっぱらの噂である。

 まさか優里さんのお母さんの大学の後輩だったとは。

 その2人に繋がりがあるのであれば、目の前の秀翔と綾奈同様協力者にすることは出来るだろう。

 それに保険医はその仕事の都合上、口が堅いというイメージもある。


「じゃぁ明日にでも相談してみましょうか」

「そうですね。協力してくだされば嬉しいのですけど」


 心配そうに息を吐く優里さんを見て、どうにかしてあげたくなる。保護欲とかそういった類いのものなのだろうか?俺にはそのあたりがよく分からん。


「まぁ事情も分かったことだし、これからは懇親会だよ」

「賛成。俺ら一色さんのことあんまり知らないしな」

「たしかに~」


 2人は優里さんの感情を察してか明るい雰囲気で話題展開を図ってくれた。こういうことが出来るからこの2人とは仲良くやれているのだと思う。



 しばらく話していた。

 主にこの1週間の俺達の同居のことを・・・。


「駄目だよ!男の前で下着姿とか!!」


 名前呼びルールのことから俺が提示したルールの話になり、優里さんは正直に下着姿で俺の前に出てきた話をしたのだ。

 案の定綾奈は注意して、何故か机の下から俺のすねを蹴り上げた。


「っだぁ!?」

「なんか今凄い音したけど。ってなんでノブ涙目なんだよ」

「おまっ、普通蹴るか!?絶対すね凹んだって!」


 いつもの感じで話しているのだが、優里さんは目をぱちくりさせている。こういったテンションで話すことはないから新鮮なのでは無いだろうか?

 そんなことよりもマジで凹んでいることを疑う。それほどまでに痛かった。


「ですが信春君は優しいです。毎日私に色々なことを教えてくれますし」

「それでも許したらいけないこともあるんだよ。優里ちゃんは男と一緒に生活していることをちゃんと自覚しておくべき。それがノブ君じゃなかったら絶対襲われてるから」


 ちょっと胸に刺さる。何度か理性がぶっ飛びかけたことがある以上、紳士ぶっているのが辛かった。罪悪感と綾奈の勘違いで。


「ですが綾奈さん、私信春君以外とこのような同居するつもりはありませんよ?」


 ピシッと空気が固まったのは気のせいでは無い。まったく、今日何回空気がとまるんだよ。

 油断したその時、猛烈な痛みがすねを襲った。

 あまりの衝撃に跳ね上げた足が机を蹴ってしまった。


「大丈夫ですか!?」

「・・・うん」


 涙が出かかるのを必死で我慢する。

 いってーな!!何しやがんだ!!と視線で秀翔に訴えるが、何食わぬ顔でコーヒーを飲んでいる。

 今度は蹴ってこなかった綾奈もジト目でこちらを睨んでいた。

 なに?なんか悪いことしたのかって話だろ。


「で、さっきの言葉の意味聞かせてくれる?」

「はい。実はお母様と晴彦さん・・・信春君のお父様ですね。お二人から、信春君のプロフィールを見せて貰いました。そのとき直感で感じました。私はきっとこの人となら上手くやっていけると」


 ちょっとコーヒーを吹きかけた。さっき蹴られた意味がようやく分かる。


「それは優里ちゃんの同居生活がって話だよね?」

「はい!もちろんです」


 何故か少し傷ついた。しかし、それでもさっきの言葉の真意を測りかねている。

 優里さんは一体俺の何をそこまで信じれるのか。でもまぁ嫌われて無くて良かった。その気持ちの方が優先された俺はもう重傷なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る