第13話 彼女は人目を気にしないらしい

「いらっしゃいませ~」

「あ、2人なんですけど後からもう2人来ます」

「ではこちらのお席どうぞ~」


 綾奈の言っていたカフェは、学校から少し離れていて密談をするにはちょうど良い立地にあった。

 案内された席に秀翔と向かい合って座る。本当はあとから来る2人のことも考えて隣同士に座っておきたかったが、反対側が空いているにもかかわらず男隣同士で座るのは変だと思って反対側に座った。


「今日大変だったな」

「なに心配してるフリしてんだよ。お前が爆笑しながら俺の事見てたの知ってんだからな」

「知ってたんかよ」


 秀翔はスマホを触りながら俺に返事をする。おおかた綾奈と連絡を取っているんだろう。そういえば優里さんの連絡先聞いてないな。

 なんだかんだ一緒に過ごしていたし、離れることもしなかったから連絡先を必要としていなかったけど、今後何があるか分からないし聞いておいても良いかもしれない。

 これも同居していなければ出来ないことだと思う。

 そんな関係にない状態で連絡先を聞けばそれすなわちって感じがする。クラスメイトなのだからと言ってしまえば、全員と交換しなくてはいけなくなる。

 それはめんどくさいと思った。

 特にすでに関係は最悪に近いというのに。まぁあくまでそれは俺の主観的感想ではあるが・・・。


「綾もうすぐ来るってさ」

「そうかい」


 俺もスマホを触ってメッセージアプリ『RAIN』に来ている分の返事をする。

 5分ほどたった頃、店の扉が開いた。周りにいる男どもの視線がそっちに集まったのが分かった。


「えーっと先に2人来てると思うんですけど」

「・・・あ、はい。こちらです」


 店員さんに連れられて俺達の机とやってくる2人。

 途端に周りからため息が聞こえた。露骨すぎる反応を無視して2人に座るようにジェスチャーする。

 しかしまぁ自然と座る位置は決まってくるわけで、


「お隣失礼します、信春君」

「はい、どうぞ。一色さん」


 俺はおいていた鞄を椅子から避けたのだが、優里さんが座る気配はない。

 秀翔や綾奈も気がついたようで、不思議そうに優里さんを見ている。


「一色さん、どうかした?なんかノブ君がやらかしたの?」


 なんで俺が何かやった前提なんだよ。

 しかし、優里さんは無言で綾奈の言葉に頷く。

 ・・・俺が何かしたみたいだ。何をしただろう?彼女が座る予定の席に鞄を置いていたことだろうか?しかしそんな怒ることか?


「信春君」

「なんでしょうか?」

「私の名前は優里です」


 頬を膨らませているのは、わかりにくいがきっと怒っているのだと思う。しかし、ここで名前で呼ぶというのもなんだか恥ずかしい。


「えっと、目の前に秀翔と綾奈がいるんですけど」

「だからなんですか?私とのルール忘れたのですか?」


 破裂するのでは、と心配するほど頬を膨らませて不満アピールをする優里さん。

 確かにあの日ルールだと優里さんは言っていた。俺が決めたルールを優里さんは守ってくれているんだ。


「家の中だけのルールだと思っていました」

「私は外でも適用されると思っています」

「でも、それだと俺の命が・・・」

「では知っている方の前でだけにしましょう」


 どうしても俺に譲歩するつもりはないらしい。しかし困ったな・・・。


「呼んでやれよノブ」

「そうだよ、一色さん可哀想じゃん」


 援護射撃が一切ない俺の方が可哀想じゃね?なんでこいつら基本的に俺の困る方の背中を押すわけ?

 あ、こいつら俺の事嫌いなんだな?そうだと思ってたわ。


「えーっと、慣れるまで待ってくれませんか?」

「今慣れましょう。そもそも相馬君や若竹さんを名前で呼んでいるのですから慣れなんて必要ないでしょう?」


 いやまぁそうなんだが、少し違うんだ。この微妙な違いはおそらく当事者にならなければ分からない。


「わかりました、優里さん。これでいいですね?」

「はい!」


 ニコッと満足そうに笑った優里さんはようやく席に着いた。

 全員が揃ったら注文を尋ねに行くと言っていた店員が、全員が着席したのを確認してオーダーを取りにやってくる。


「私アップルティーとシフォンケーキ!」

「いいのかよ、大会近いんじゃないのか?あ、俺カフェラテで」

「いいんだよ。毎日制限してたらストレスたまっちゃうもん。それにすぐカロリー消費する予定だもん」

「はいはい、それは悪かったですね」


 秀翔が綾奈に突っ込みながら自分も注文する。

 俺はどうしようか・・・。隣を見ると優里さんも迷っていた。


「私、コーヒーってよく分からなくて・・・」

「じゃぁ俺が飲みやすいと思うやつ注文する?」

「良いんですか?ではお願いします」

「えーっとじゃぁカフェオレ2つでお願いします」

「かしこまりましたぁ~」


 店員さんは再度注文を確認して、厨房の方へと入っていった。


「で、話聞かせてくれるんだよな?」

「あぁ、そのかわり2人には協力者になってもらう」


 やはりどうしても学校生活を送る上で、2人の同居がバレる可能性のある出来事は起こりうる。今日の小野先生の様子を見るに、学校関係者に両親達は話していないようだった。

 だからこの2人にはバレそうなことが起きたとき、一緒に回避するように動いて欲しい。そういう役割だ。


「私はいいよ。一色さんとはもう友達だし。ねぇ~?」

「はい、私も若竹さんはもうお友達だと思っています」

「チッチッチッ、私の名前は綾奈だよ?綾奈って呼んで欲しいな、優里ちゃん」


 一瞬困惑した優里さんだったが、さっきのやりとりがあった手前なのかわりとすんなり受け入れたようで


「では綾奈さんとお呼びします。よろしくお願いしますね」


 綾奈は嬉しそうだ。

 なんで秀翔はそんな微妙な表情してんの?なに、呼んで欲しいの?


「まぁそこの話は別に良いんだけどさ、そろそろ本題に入ってもいい?」

「あぁ、今日はそのために集まったんだからな。わざわざこんな家の反対側の街にな」

「それ、たぶん私のことディスってるよね?」


 じゃれ合う2人をよそに俺はこれまでの経緯を話し始めた。

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