第12話 俺は思った以上に抱え込んでいたらしい
あれから大変だった。何があったかはもう思い出したくないから、想像にお任せしよう。
生活指導の
そんな先生に廊下を全力疾走しているところを見られて、そのまま追っ手もろとも生徒指導室に連行された。
何をしていたんだと聞かれても、まさか一人暮らしをしている部屋で女子と同棲しているなどどちらに対しても口が裂けても言えるはずなく、だんまりを決め込んだ。
さっさと白状しろと無言の圧力を全員から浴びることになるのだが、こうなった以上原因であるクラスメイト共々一緒に説教を受ける覚悟をした結果、始業式が始まる直前まで拘束される羽目に。
しかも最初に俺を押さえ込んでいた秀翔はこの場にいない。おそらく優里さんの告白を聞いてしまったのだろう。
そっちの方が憂鬱だと思った。
「それにしても随分怒られてたんだな」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「あ、私?」
始業式が終わり、教室に戻る最中後ろから声をかけてきたのは秀翔と綾奈だった。
なんか色々あやふやになっていたが、直接的な原因はこいつらなのだから文句の1つくらい出る。
「で、どういうことかちゃんと説明してくれるんだろうな?」
「聞いたんだな」
「否定しないって事は事実なんだな」
秀翔は未だ冗談だとどこかで思っていたのか、ここにきてようやく信じたようだ。綾奈はそこまで驚いていない。まぁ優里さんに対する信頼とかそんなものなのだろうか。
「今日、ウチ来いよ。ちゃんと説明するから。俺としても今日の様子を見るに秘密の共有者が何人かいた方が助かる気がするし」
「えぇ~ノブ君の家しんどいからやだぁ」
綾奈が駄々をこねる。それに秀翔も頷いている。もう誰も俺の家に遊びに来てくれないつもりなのだろうか。それはそれで少し寂しいんだけど。
「ねぇ最近出来たカフェ行かない?部活の後輩ちゃんがすごく良かったって言ってて、1回行きたかったんだよね~」
「まぁゆっくり話が出来るのなら俺はどこでも良いけど」
「じゃぁ決まりだな。あ、一色さんはどうすんだ?」
秀翔に言われて、たしかにそうだと思った。
今日リスクを冒してまで優里さんと一緒に登校したのは、その道中を1人にするのが心配だったからなわけでそれは下校時も同じ事だ。
「今回のことの当事者なわけだし一緒でも良いか?」
「当然オッケーだよ!じゃぁ私が誘っていくね。ノブ君と一緒だとまた騒ぎになりかねないし」
「綾奈が原因だったような気がするんだけど俺の記憶違いだったかな」
「記憶にございませーん!」
俺から逃げるように、綾奈は早々に教室に戻ってしまった。
「んで、いつから?」
「前クラスの発表があった日、帰ってから」
「ってことはもう1週間くらいか」
秀翔は腕時計にある日付を見ながらそう言った。
そう、もう1週間も一緒に生活しているんだ。色々大変だった。
主に理性を抑えることに・・・。
「なるほどな~。で?」
「なんだよ。で?って」
秀翔のやれやれといったわざとらしい動きが、イラッとくる。
「1週間も一色さんと同棲したんだろ?何か進展とかないのかよ?このチャンスを逃す手はないだろ?」
「俺はなんもするつもりは無いから」
横から大きなため息が聞こえた。その不満そうな顔辞めてくれ。俺だって・・・、俺だってさぁ。
「俺だって色々きついんだよ。相当我慢してんだぞ」
「なんで我慢するわけ?押し倒せば良いんだよ、お前なぁ年頃の男がそんな消極的でどうすんだ」
「無理なんだよなぁ・・・、まぁ後から話すけど、一色さんが実家を出た理由を聞いたらなぁ」
「・・・なに?なんか重い話?」
秀翔が嫌そうに俺を見た。
そうじゃないんだよ。これは俺が勝手に重く感じているだけなのかもしれない。
だいたい優里の両親だってある程度は理解しているはずだ。年頃の娘を信用している男の息子の元だとはいえ、男と一緒に住ませる意味を。
「いゃ全部俺が悪いから、そこまで重くはない。はずなんだけどなぁ~・・・」
こうやって抱え込んでいた秘密を誰かに話すと、一気に依存しそうになる。
これ以上漏れ出てこようとしている言葉をもう一度飲み込んで、秀翔には言わないことにした。
優里さんを受け入れた以上、これは俺が負うべき責任なんだ。
秘密の共有者には、今後起こるであろう厄介ごとを払って貰う程度の関わりにする。
あとは俺と優里さんの問題だ。他の奴らには極力迷惑を掛けないでおこう。
口には出さないものの、密かに俺はそう誓った。
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