第17話 俺に憧れている1年生(♂)がいるらしい
「お前ら1年だよな?」
「え?あ、はい1年生ですけど・・・」
恐る恐る急に絡んできた先輩に返事する1年生諸君。
可哀想に。1番めんどうな奴に絡まれている。しかもこのウザ絡みは教師公認なのだ。まぁ小野っていう先生なんだけどな。
「さっきこの学校1カワイイと評判の人と同じ部活に入りたいと言っていたな」
「あ、その・・・はい。もしかしてあの人彼氏がいるんですかね?」
「そりゃそうか・・・。やっぱそうだよな」
こちらからは何も返事をしていないのに目の前の2人の1年生は早速元気を無くしてしまっている。っていうかニヤニヤしながらこっち見んな。
秀翔は入学式終わりに校庭に集まっている1年生に部活勧誘を仕掛けていた。
何故か俺まで引っ張り出して・・・。
「あの人は一色優里って言ってな。超大企業のお嬢様だ。まぁ悪いことは言わない、やめとけ」
「え!?じゃぁあの人が一色フーズのお嬢様なんですか!?」
まぁ1年生恒例の反応ではある。去年も現2年生の男子どもがこうやって騒いでいた。
「そういうわけだ。ちなみに隣のコイツが今1番親しい間柄なんだがな」
またニヤニヤしながら俺を指さす秀翔。こいつは一体何がしたいんだ。そう思ったが、絡まれている1年生2人は羨望のまなざしで俺を見ていた。
男からそんな目で見られても嬉しくないし、変なことを広めないで欲しい。
また男共から追われる日々が始まっちゃうじゃないか。
「まぁ相手がいると思って諦めろ。それと一色さんは生徒会にしか所属していない。そして生徒会には最強の生徒会長がいるから入会しようとするのならそれ相応の覚悟が必要になる」
「さ、最強の生徒会長・・・」
元チームメイトにひどい言い草である。これでまた今年の1年生からも八神は神格化されることだろう。次代の生徒会長も立候補しにくくなるだろうな。
まぁそっちに関しては半分八神が悪い。
「って言うわけだからな大人しくサッカー部に入っとけ。あとこの話お前らのクラスにも広めとけよ」
「分かりました!」
なんかよく知らないが、秀翔は色々教えてくれる優しい先輩認定されたらしい。
しかしそれは俺の勘違いだった。
「あ、あとな」
急にドスの利いた声に変わる。
「陸上部に変な気持ち持って入部する奴がいたら、サッカー部の相馬って先輩がボコボコにするらしいっていう噂も流しておけよ。わかったか?」
「あ、はいぃ!」
まぁ陸上部の部長は綾奈だから心配なんだろうけど、これで今年の陸上部の入部希望者減ったな。ちなみに去年も同じ事を1年生に言っていて、綾奈が入部希望者が少ないとぼやいていた。
もちろん秀翔のコレを綾奈は知らない。噂は確かに流れたはずなんだけど不思議なものだ。
「先輩、1つ聞いて良いですか?」
1年生のうち1人が俺に声をかけてきた。
「ん?俺に質問してもサッカー部のことは分からんぞ」
「いえ、そうじゃなくて・・・先輩ってバレー部に所属している鷹司先輩ですか?」
「いや、俺帰宅部だけど何で?」
俺が帰宅部だと聞いたその1年生はとても不思議そうな顔をしている。
1つ思い当たる節があった。
「もしかして去年の春、練習試合見に来てた中学生か?」
「ハイ!五月丘高校と西洋実業高校の練習試合です」
「あぁ、なるほどね。だから俺の事知ってたわけか」
実は去年の春。俺は恒例の部活の助っ人としてバレー部の練習試合に同行していた。その頃ウチのバレー部は怪我人が続出していて、1つ上の先輩だった馬場先輩というエースアタッカーの人も足の怪我で練習試合に参加できない状態だった。
元々何かあったとき要員で練習にも顔を出していた俺は、他の部員をなるべくポジション通りに出させたいという顧問の希望によって、その先輩の役目を俺が引き受けることになったのだ。
その日やけに調子の良かった俺は結果的に現役部員よりも目立ってしまい、その後めちゃくちゃ勧誘された。
当然断ったけど。その日見かけたのが地元の中学校の制服で観戦に来ていたこの男子だったのだ。
「なんであれだけ上手いのにバレーやってないんですか。俺先輩に憧れて五月丘高校受けたんです」
「それは知らないよ。俺はあくまで助っ人で出ただけだし、それに部活にそこまでアツくなれない」
「よく分からんけどコイツはこういう奴なんだよ。ただし今でもいろんな部活に助っ人で呼ばれてるから、そのうち一緒にプレーできるかもな」
俺の反応を見て秀翔が気を遣ってくれた。ちょっと今のはいけない返事だったと反省だ。
1年生も申し訳なさそうな顔をしてしまっている。
「あの、先輩って一色先輩と仲いいんですよね?」
「仲いいって言うか・・・ププッ」
もう1人の1年生も気を遣ったのか、優里さんの話で部活の話題から話を逸らす。秀翔もそれに便乗したようだが、そのわざとらしい笑いが癪に障る。
「え!?でもお付き合いはされていないんですよね?」
「おい、1年生。君にいいことを教えてやろう。こっちに耳出せ」
「は、はい」
ゴクッとつばを飲み込む音が聞こえたような気がした。一体秀翔は何を話そうとしているのだろうか。
秀翔の耳を掴んで1年生から引き剥がす。
突然痛がり悲鳴をあげた秀翔の声にビックリした1年生の肩がとんでもなく跳ねたのが見えた。
「一色とは家が近いんだ。最近登校時間が重なってな。それでこんなこというバカが出て来ていて迷惑しているから、お前ら余計なこと言いふらさないでくれ。俺の平穏が壊される」
「あ、わかりました」
よく分かってくれた。こいつら良い奴だ。
そして2人は別の1年生たちに呼ばれて立ち去っていった。
「にしても、ノブだってよく覚えていたな」
「ん?あぁあの子か?まぁ上手だなっていう感想を持った記憶はある」
「へぇ~そうかい」
特に興味がわかなかったのか何なのか、秀翔は別の1年生に声をかけに行った。
今日はあと何人に声をかけるつもりなのだろうか。
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