第7話 お嬢様はやはりお嬢様だったらしい

 部屋に荷物を持っていって、改めてリビングのソファーに向かい合って座り直した。

 同じ家に住むということで、やはり最低限ルールを設ける必要があると思ったからだ。


「まずは最低限のルールを決めましょう」

「ルールですか?・・・例えばどういったものでしょうか?」

「まず1番大事なことをいいます。風呂場の脱衣所に入る扉には鍵がありません。必ずノックをして中に誰もいないことを確認してから入ってください」


 ルールを決めようと思ったときに真っ先に思いついたものがこれだった。ラッキースケベだろうが何だろうが、そんな甘い誘惑に負けるわけにはいかない。

 それに家族じゃない異性に裸を見られるのはやはり恥ずかしい。


「わかりました。必ずノックします。他には?」

「そうですね、一色さんのお母さんは普通を学ぶために家から出したのですよね?であるならばやはり家事は分担するべきです」

「あ、そうですね。まだまだ何も出来ませんがこれから覚えていきます!」


 そんな決意みなぎる表情もカワイイ。っていうか今更だが良いのだろうか。俺だけこんな幸せな思いをしても。まぁもちろん誰にもこの幸せを分ける気は無いんだが。


「ちなみに料理は?」

「頼めば出てくるのではないのですか?」

「洗濯は?」

「クリーニングではないのですか?」

「掃除は?」

「メイドさんにお願いしていました」


 俺は膝から崩れ落ちた。視界の隅では驚いた表情で俺の名前を呼ぶ一色さんの姿がある。

 よく世間知らずがどうとか言えたよな!あ、だからか・・・。

 ってかこれ思ったよりも大変かもしれん。まぁ料理は追々でいい。掃除と洗濯を早急に覚えて貰おう。

 俺は初めて料理が出来るまで家に放置していた両親に感謝した。あ、誤解を与えないように言っておくが父さんも母さんもちゃんと帰ってきてはいた。ただし小学校の高学年になった頃には、夜、腹が減って自主的に料理をするようになりはかったかのようなタイミングで2人が帰ってきていた。つまり完全放置っていうわけではない。


「まずは洗濯と掃除からですね。最初のうちは一緒にやって教えるんで覚えたら当番制にしましょうか」

「よろしくお願いします!それでお料理は?」

「俺がとうぶんします。ただそれだけでは一色さんのためにならないので料理に関してはゆっくりですね」

「ハイ!」


 いやぁ~かわいいなぁ。癒やされる。ただこれしばらくは誰にも言えないなぁ。しばらくっていうか墓場まで持っていくしかないよな。バレたらもれなく俺だけ墓にぶち込まれかねない案件だろう?


「ところで私からも1つルール良いですか?」

「なんでしょうか、一色さん?」

「それです!」


 ビシッとでもいいそうな勢いで俺の口元を指さす一色さん。


「信春君と私は呼んでいます」

「はい」

「私は?」

「一色さんですね」


 無言で首を振る。綺麗な髪がその動きに合わせてヒラヒラ舞っている。


「優里と呼んでください」

「えっと・・・一色さんではいけませんか?」

「ゆ・う・り!!」

「・・・優里さん」


 満足そうに頷いた一色さん、もとい優里さんはその後もしばらくお互いを知るためだと色々な話をした。

 にしてもこうして話してみて思ったのは、かなり話していて楽しい。なんというか聞き上手なのだと思う。

 長く話し込みすぎて喉が渇いてきた。俺は断りを入れてから立ち上がってキッチンへと向かい冷蔵庫に入れてあるお茶をコップに注いで、そしてまたリビングへと戻った。


「って、その金はなに!?」

「はい、お父様が通学が大変だろうからこれを使いなさいと」


 それは暮葉さんが持ってきていた鞄の1つ。中から大量の札束が出てくる。人生初百万の束が複数。目が回りそうだ。

 これを使って良いのか判断できず優里さんに電話で確認して貰った。同居人がビビっているということをオブラートに包んで伝えて貰ったのだが、突然押しかけてしまった迷惑料だから生活費の足しにしてくれとのことだった。

 まぁ男の一人暮らしでなくなるわけだし、優里さんの部屋には今日持ってきた荷物以外はなにもない。生活必需品や家具をそろえるために使わせて貰って、あとは電車賃として使うことにした。

 なんだか優里さんに引っ張られて俺も駄目になっていく気がする。

 これから波乱の1年が始まるのだが、俺としてはそんなことはだいたい想像できてしまうのが辛いところだ。

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