第3話 両親は頭がおかしくなったらしい
終業式が終わり、一度全員が教室に足を運ぶ。
たった1年とはいえ、この教室を使うのも今日で最後なのだと思うとやけに寂しいという感情が溢れてきた。
しかしそんな俺の感情をなんのそのと破壊してくるのがこの親友だ。
「よぉーっし、これで俺達も3年生だなっ!!やぁ~あいっかわらずあの校長の話なげーよな。あと、ズレてたし」
プププっと笑う秀翔は俺の肩に腕を回してきた。コイツに空気を読むと言うことを教えなければいけない。
しかし、どうやったって直らんだろうな。コイツバカだし。
「でさぁ、終わった後どっか行こうぜ」
「ん?前言っただろ。今日は会う人がいるから駄目なんだって」
一瞬教室の空気が止まった気がした。1人のクラスメイト(男)が
「タカ~まさか女じゃ無いだろうな」
と言うやいなや
「はぁ!?まじで!?」
「おまっ・・・俺達を裏切るのか!!」
勝手に盛り上がりをみせていくカップル絶対許さん勢を横目に一発秀翔に蹴りを入れた。
「なんで俺が蹴られんだよ!いてーって」
「今分かっててデカい声でその話題出しただろ。絶対食いついてくる奴がいるって確信してたな、おい」
ゲシゲシ蹴っていると担任が入ってきた。
年中ジャージで終業式にすらジャージで来るこの担任は
似たもの同士だと思って欲しい。実際そうだから。
「お前ら相変わらず仲が良いな。これは来年も同じクラスありそうか?」
「知らないっすよ。それよりはやくHR始めませんか?」
「そう照れるな、鷹司。来年先生の教え子から外れる生徒がいると思うと悲しくてなぁ」
泣いてないこの教師はすすり泣く真似をした。いいからさっさとやってくれ。
さっきはあやふやになったが本当に会う約束があるんだ。今日は1年ぶりに両親に会う。
そう、俺にとっては特別な日なんだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
マンションの前まで帰ってくると、知らない車が停まっていた。
見るからに高そうで、傷なんか付けた日には黒スーツの厳ついお兄さんがたくさん出て来て弁償しろ!なんて脅されかねない。そんな車だった。
絶対に当たらない距離を歩きながらマンションの入り口のオートロックを解除しようとしたところで、例の車から人が降りた気配を感じる。
「信春、久しぶりじゃ無いか」
「ホントに1年見ないうちに大きくなってぇ」
「え?」
懐かしい声に反射的に身体が反転する。
立っていたのは、間違いなく俺の両親だった。ってなると1つ気になることがある。
「また車替えたの?前はどこだったかの外車じゃなかったっけ?」
「あぁあれは何年も前に替えたんだ。それより」
「それより?それより何年も前に替えたわりにこの車綺麗すぎじゃね?」
「あぁ、この車を買ったのは数ヶ月前だからな。それより」
「それより?それよりどんなペースで車乗り換えてんの?」
「そうだなぁ・・・お前が独り立ちしてから5台目?だったかな」
秀翔にしているように胸倉を掴んでしまった。ここまできて引き下がれるか。
「どんなペースで車買ってんだよ!?アホか!?アホなのか!?」
「待て待て、誤解だ信春。これは父さんが買ったんじゃない。頂いたんだ」
「そうよぉ、お父さんの車だけどお父さんが買った車じゃないのよ」
これまで俺の迫力に押されていたのか、再会の感動なのか黙りこくっていた母さんが俺と父さんの間に入って俺の暴挙を辞めさせる。
「意味が分からんのだけど」
「それはそのうち分かる。それよりお前にはこれから新たな住居に向かって貰う。車に乗ってくれるかな?」
「・・・意味が分からんのだけど」
俺の抵抗空しく強制的に車に乗せられた俺は、これまで5年過ごしてきた家から急遽引っ越すことになったのだが、その新たな住居というのが問題だった。
「・・・なぁ母さん?」
「なぁに?」
「ここってこの辺でもかなり有名な一等地って言われてるとこじゃない?」
「・・・ん~お母さんよく分からないわ。でも立派な家がたくさんねぇ」
聞く人を間違えた。鼻歌を歌いながら迷いなくどこかに向かって運転している父さんに話しかける。
「あぁよく知っているね。そしてお前がこれから住む家は父さんの知り合いが管理しているマンションなんだけどね。防犯対策は万全、サービスも充実しているかなり良い場所になる。きっと気に入ってくれるはずだよ」
最近の両親の行動が怖すぎて聞きにくくなった質問を投げかけてみた。
「父さんは一体なんの仕事をしているんだよ」
「・・・秘密だよ」
やっぱりそうなんだよ。ため息を何度吐いたかわからない頃、父さんの言っていたマンションに着いた。
エントランスに入る前に上を見上げてみる。
あぁ俺この両親の言いなりになっていて大丈夫なのだろうか・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます