正統派キャラなのにヤンデレ化して私を閉じ込めようとしないでください
仲仁へび(旧:離久)
第1話
乙女ゲームの世界のお貴族様に転生した私アリシャは、本日も閉じ込められてます。
閉じ込めたのは攻略対象である正統派キャラ・トール。
正義感が強くて、何にでもまっすぐにぶつかっていくところが魅力だ。
「頑張れば、どんな障害だって打ち砕けるさ!」
彼は、そういう熱血セリフがぴったりくるキャラだ。
一時期は真面目ぶって「お嬢様、ご機嫌はいかがでしょうか」なんて丁寧キャラになっていたけど、大体は熱血。
見てるこちらが若干、暑苦しくなってしまうほど。
けど、それなのに目の前の彼は、「また怪我をしたんだな、本当におてんばなんだから。怪我なんて駄目だ、見張っていなくちゃ。もう俺はあんなふうに何かを失いたくないんだ」とかぶつぶつつぶやきながら、瞳のハイライトを消しています。
どこからどう見ても、ヤンデレ化している。
私は、なぜこうなったのかを思い出そうとした。
乙女ゲームの世界に貴族令嬢として転生した私は、幼少期から様々な人物と出会い、親交を深めた。
日々の思い出は色鮮やか。魅力的な人物がたくさんいて、毎日がどきどきの連続だった。
攻略対象の「二人」正統派キャラ・トールや幼馴染キャラ・アリオとの日々は、なかなか胸がときめくものだった。
トールは、知り合った頃は、「まさしく正統派!」という感じで、何にでもまっすぐだった。
「おいおい、最初からあきらめるなんてらしくないな」
「俺は頑張った分だけ報われるって、そう信じてる!」
「拳を交わせば相手の気持ちが伝わるもんだ。俺の気持ちだってきっと伝わっているさ」
幼少期イベントで、家庭教師から出題された問題が解けなかった時は、私にキラキラスマイルをおくって励ましてくれたし。
頑張ってもなかなか勉強が進まない時も、私ならできると信じてくれた。
仲の良い他の攻略対象と決闘した時も、相手と分かり合える事を信じきっていたくらい。
なのに、あの頃のキラキラ要素はどこへ?
確かに他の人物と仲良くする時間が最近は多かったけれども。
嫉妬が激しくなった末に「絶対に君を失いたくない」とか言って閉じ込められるようになるとは思わなかった。
俺は自分の部屋にアリシャを閉じ込めている。
彼女しか目に入らなくなったのは、一体いつごろからだろう。
おそらく命の危機に瀕した時、子供の頃のあの嵐の夜の出来事からだ
とある出来事で、彼女が怪我をしてしまったのだ。
それは俺のせいだった。
俺があんな嵐の夜に、屋敷の裏手に住み着いていた野良猫の事を口に出さなければ、
その時から、俺は過激な行動をとるようになってしまっていた。
彼女が視界から外れると不安でたまらなくなる。
目を離すと、良くない事が起きてしまうような気がするのだ。
だから、俺は彼女を閉じ込める事にしたのだ。
俺の部屋に閉じ込めていれば、彼女は絶対に俺の目の前からいなくならない。
それが間違っているという事は分かっているのに、やめられなかった。
彼女は俺に言ってきた「貴方らしくないわ。どうしてこんな事をするの?」と。
彼女は、子供の時に起きた出来事を覚えていないようだ。
あの時彼女は、崖から落ちて頭を強く打ってしまっていた。そのため、その影響のせいだろう。
申し訳ないと思いながら、俺はその時の出来事を詳しく教える事ができないでいる。
あんな辛い目に遭った出来事なんて、忘れていたほうが良いのではないかと思うからだ。
「あいつ」が死んでしまった、あんな悲しい出来事なんて。
トールのお部屋の中に閉じ込められて三日が経過しました。
さすがに両親や友人達が心配になって、私を探しまわっているらしい。
だから、一番怪しいであろう場所・トールのお屋敷に、彼等はがんがん訪ねてきた。
私が出かける際に、「トールの所に遊びに行く」と伝えておいたので、自然な流れなのだろう。
けれど、この部屋の主は「俺は彼女の事なんて知らない」とシラを切っている模様。
誰もこの部屋、どころではなく敷地内にも入れさせてもらえない。
なら、自分で何とかするしかない。
私は、彼の目を結んで部屋から脱出する事にした。
いくら彼でもこの部屋にずっといられるわけではない。
なので、部屋を出て言った瞬間に脱出作戦開始。
「窓、固い! ナニコレ接着剤!」
「ドア開かない! 内側から開かないってどういう事!」
「通気口! 単純に無い!」
ちょっとひと悶着あって、かなり疲れたが、何とか脱出。
最終的に、扉の裏側に隠れて、部屋の主が「いっ、いなくなっている!」とうろたえている隙に脱出させてもらった。
単純な方法の方が有効だった。
彼は、こういう知恵を働かせる事が苦手だから。
勉強の成績もあまりよくなかったし。
しかしさすがというか、執念がすごい。
すぐにヤンデレと化した攻略対象が、再度私を閉じ込めようとして追いかけてきた。
攻略対象達の中では結構足が速いし、体力があるので、振り切るのが難しい。
けれど、だからといって捕まるわけにはいかない。なので、必死に逃げた。
そしてたどり着いたのは、子供の頃によく遊んでいた場所。
彼の屋敷の裏手。
そこには、綺麗な草花がたくさん生えているので、昔はトールと一緒によく遊んでいたのだ。
しかし、私はうっかり者だ。
ここは崖になっているので、行き止まりだった。
私は追い詰められてしまった。
「そこは危ない。こっちに来るんだ」
「ごめんなさい。私は家に帰らないと、皆が心配していますわ」
自然と、にじりよってくる彼から逃げるために、崖の方へ身を寄せるしかない。
すると、彼はみるみる顔面蒼白になっていく。
「駄目だ。そこから離れろ。君は安全な所にいるべきなんだ」
「どうしてそんな顔をしているの?」
なぜ、と問われた彼は硬直してしまう。
そして、逆にこちらへ問いかけてきた。
「君はおかしいと思わないのか。なぜ友達が「二人」しかいないのか?」
私はその言葉の意味が分からず首をかしげるしかない。
なぜ、と言われても。
そうなのだから、しょうがないのでは?
「なら、質問を変えようか。どうして今「二人」しかいないんだ?」
「今?」
こちらに歩み寄ってくる彼。
そんな彼がなぜか先ほどよりもすごく恐ろしく見えて、反射的に身を引いた。
その時、体勢をくずしてしまった。
私は崖から落ちてしまう。
「アリシャ!」
思い出すのは、嵐の夜の日の出来事。
トールの屋敷に遊びに行って、けれど天候が悪くなったため、彼の屋敷に泊まる事になったのだ。
「お泊り決定ね! 今日はたくさんお話しましょう!」
「はい、楽しみですね」
「何で遊ぼうか。俺は何でもいいよ! 皆で遊べるならそれだけで楽しいだろうし!」
それは、私アリシャと誰か、そしてトールという少年。
私達は、その晩、部屋の中でただ楽しく過ごせばよかった。
けれど、昼間に屋敷の裏手で出会った野良猫が心配になって、外に出ていってしまったのだ。
暗闇の中ろくに視界が効かない場所をむやみに歩き回ったのだから、結末はしれている。私は、足を踏み外した。
私が、崖の近くに近寄ったりしたから。トールという少年も一緒に巻き添えになって、それで崖から落ちてしまった。
「そっちに近づいてはいけません。あっ、危ない!」
「きゃっ」
崖下で気が付いた時、トールは私をかばったせいで、重い怪我を負っていた。
私達がいなくなった事に気が付いた大人達が、すぐにこちらを発見して、助けてくれたけれど、結果は悲惨な物だった。
だから私は自分を責めたのだ「私のせいでトールが死んでしまったと」。
けれど、それを見かねた「彼」が私にこう言ってきた。
あの嵐の夜、無事だった「彼」、あの場にいたもう一人の少年が。
彼みたいな恰好をして。彼みたいな言動をまねて。
「だいじょうぶです、トールはしんでいませんよ。ほら、わたしはげんきでしょう?」
それに私は縋り付いてしまった。
「彼」は死んでしまったトールと親友だったから、だからまねた言動がそっくりだった。
頭を打っていて、安静にしていなければならない私は、その後急に倒れてしまった。
それで、次に私が起きた時は、トールではない人間を「トール」だと思い込んでしまっていたのだ。
目を覚ましたら「彼」の屋敷のベッドで眠らされていた。
ずっと、「トール」のふりをしてくれていた「彼」。
「彼」がヤンデレ化してしまったのは、どうやら私が原因だったらしい。
あの夜、屋敷の外に出た時に嵐の激しさを実感した「彼」は戻ろうと言っていたのだ。
それなのに、心配だからと私が駆けだしたりなんかしたから。
ずっとつきっきりで看病していただろう「彼」は近くで寝息を立てていた。
これでは彼の最近の行動を責められない。
起きたら何を話せばいいのかまだ分からない。
でも、呼ぶべき名前はもう定まっていた。
「彼」の頭をなでると、それが覚醒の刺激になったのだろう。
ゆっくりと「彼」が瞼をあける。
私は「彼」の名前を呼ぶ。
「おはよう、――。貴方とは、お話ししなくちゃいけない事がたくさんあるわね」
正統派キャラなのにヤンデレ化して私を閉じ込めようとしないでください 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます