第82話 強雨
雲行きも怪しいし準備自体は終わったから、森の浅い方へ向かっている。
いつからか獲物を狩る量が増えすぎて、森と草原の境界に荷車を置いている。そこまでは手持ちだ。
結構な距離になるが、スタミナNO1のイッサさんを含め三人とも足が速い。長距離なら、一番荷物を持っていてもイッサさんが早く着く。
本当に、頼りになる男になった。
しばらく走り続ける。
ポツ、ポツ。
ポツ、ポツポツ。
そんな雨粒が落ちてきたと思ったら、すぐにザァァァァアアと降り出した。
「げっ。もう降ってきやがった!」
「痛い、痛いです。何ですこの強い雨!」
「どうする? もう森を出るけど、木の下で雨宿りしていく?」
自分で言っていて、妙な気がしていた。
ここにいたいような、戻りたくないような。でも、戻らなければいけないような。
「……いえ、行きましょう」
ソージ君の顔を見て、走りながら二人で頷く。
走りながら雨に打たれながら、前方に、見えるより先に気配感知に引っかかった。
人? 弱い。亜人でさえなさそうな。
「みなさん!!」
見えるより先に、森では聞きなれない声。リリィ嬢? ここは浅いけど《魔犬》が出る範囲で、危ないのに。
ようやく見える範囲に来た時に、異常に気付いた。共も連れずに、ぐちゃぐちゃに濡れた服。何度か転んだのか、いつもの白いローブの前面が茶色に汚れていた。
スピードを緩めようとしながら、服以上にぐしゃぐしゃな表情に気付く。泣いている。さらに声。
「戻っで! 急いでタマソン村に! ヒジカ様が! みんだが!」
緩めようとした足が、全力で地を蹴りなおした。何も言わずにリリィ嬢の横を通り過ぎた。
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