サブ(1) みなみのもりのすかー②




 魔物をけんじょうするとき、女王さまは


「おのれでたおせー。生きたままはもってこなくてよいー」


とやるきがなさそうに言っていたから、ぜんぶころしてけんじょうした。


 女王さまは眠るときにもう毒がある蜘蛛巣を張るから、ひっかかった魔物だけでレベルは上がるみたい。ぼくの毒たいせいを上げるために、毒のかかりが弱かった魔物はぼくにたべさせてくれる。


 ……すっごくまずいけど。


 あるひ、ねおきの女王さまの体がかたまった。うごかなくなって、はなさなくもなった。さいしょはしんぱいしたけど、なかまがこうなったのを見たことがあった。


 《そんざいしんか》がはじまるんだ。


 そんざいしんかは、すごく強くなるけど困るのがおわったあとのくうふく。


 女王さまのために、ぼくはせっせと魔物を狩って集めた。女王さまの巣にひっかかる魔物もふえてるけど、女王さまはくいしんぼうだから、きっともっといるだろう。


 せっせと集めて、ほかの魔物にとられないように女王さまの巣につけた。毒がまわるから、ほかの魔物もひとつだって食べようとしない。


 それを食べさせられるぼくって、なんだろう……?




 せっせと集めるなか、女王さまは大きくなっていった。ぼくたちと同じ蜘蛛のからだのほうも大きいけど、あの蛇とおなじようなからだも大きくなっている。


 たいようが一回落ちてまたのぼってきたころに、女王さまは目をさました。


 女王さまは、またうつくしくなった。きれいだった黒い頭の毛は、もっとながくなってキラキラしてた。すこしまるっこかったかおのかたちもしゅっとして、しゅっとしたぶん目も大きくみえた。赤いひとみがおそろしいくらいキレイだ。前から思ってたひとみのおそろしさも、強くなってた。


 こどものかわいさから、大人のうつくしさになったみたい。それにきっと、また強くなったんだろう、


 ぼくはあしもとへ、てこてこと6本のあしでかしづいて、女王さまのことばをまった。


 女王さまは、大人っぽいしずかな目でぼくをすこし見つめて、


「……え、あーしマジ盛れてね? 盛れてるってか、羽ばたいてね?」


とか言った。


「ウエストはクビレてっしケツはデカくなってっし、髪はツヤッツヤだし、これならあいぼーってかダーリンも振り向くんじゃね?! やばたにえんってかー、きゃぱいんだけど!」


 ――女王さまは、なにを言っておられるんだろう。


 ぼくはとまどいながら、女王さまはおなかがへってるだろうとおもって、こわかったけど、今までとちがう意味でこわかったけど、狩ったばかりで毒のついていない魔物を、こわごわとさしだした。


「え! あんた命令もしてなかったのに、取ってきたわけ?」


 ぼくは、おこられるのかと思ってちょっとビクってなった。


「……めっちゃエモい」


 え? と思う間に、女王さまはぼくをりょううででだきよせた。


「あんた本っ当! マジ最&高のオトモなんだけどー!」


 びっくりした。ちょっとくるしいけれど、そのうちうれしいきもちの方が大きくなった。おしりは大きくなったけど、むねはやわらかくないからちょっとホネでいたかった。


 しばらくしてぼくをかいほうすると、女王さまはぼくにいくつかしつもんをした。


 女王さまのたおすめいれいを、ぜんぶやっていたか? ぜんぶたおしたか? というもので、ぼくはみじかい首をコクコクさせてうなずいた。


「じゃあ十分だし!」


 言って、ぼくのあたまにくちびるをあてた。


「あんたの名前は、スカー!」


 そんな声を聞きながら、ぼくはいしきを失った。



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