第77話 リリィ・ララの初恋①
ヒジカとミィ姉さんには、進展があった。
トージス家でまともな食事をするようになって、ミィ姉さんの体調はよくなったし、ソージ君の体も肉がついてきた。やっぱり姉弟らしく、ソージ君には美少年の兆しが見えてきた。
「ヒジカさんの家に行くのが、一番の楽しみです」
というソージ君に
「そうねぇ」
とミィ姉さんが応える。会ってはいなかったけれど元々幼馴染で、また馴染むのは早かった。そんな時にお母さんが、
「昔はミィちゃんも、ヒジカの奥さんになってご飯つくってあげるって言ってたのにねぇ」
と軽いジャブを入れた。それに対し、ミィ姉さんが赤面して俯いてしまった。
幼い恋の話で照れたのか、料理の出来なさで恥ずかしかったのか、それとも現在の気持ちに赤面したのかわからなかった。だから僕もお父さんもお母さんも、何も言わなかったのだけれど。
「……別イイダロ。俺がツクル」
ヒジカが普通に言い放った。
「「「――――――――!!」」」
僕と両親の目線が、抑えられずヒジカに注がれる。
そしてミィ姉さんが、俯いたままに
「よろしく、お願いします」
と応えて、色白の顔を耳まで真っ赤にした。
「「「「―――――――――!!!!」」」
声にならない叫びで無言なのに、うるさい食卓だった。
そんな単純なやり取りで、思いは通じてしまったんだ。
「わたしたちが、世話を焼くようなもんじゃなかったわねぇ」
「何よりじゃないか。二人とも思い合ってたんだから」
「若い純情は、僕達には眩しいね」
僕が言うと、
「「その感想はまだ早いだろ息子」」
と息を合わせて言われた。村のみんながヒジカの弟と呼んでくれ、ヒジカの両親は息子と呼んでくれる。その幸せにも勝るとも劣らないほど、ヒジカの恋が実ったのは嬉しかった。
ヒジカは毎食後、ソージ君とミィ姉さんを近所なのに家まで送っていくようになっていた。ソージ君は、近いからといつも途中で一人で帰っていると言っていた。ミィ姉さんが帰って来るのは、早かったり遅かったりするらしい。
ま!!!
というわけで、リリィ嬢の存在は微妙に困るのだ。
見ていた感じとてもいい子なので、むやみに傷つけたくはない。イッサさんはともかく、ソージ君にはリリィ嬢の気持ちを話して、ミィお姉さんのことをバレないように協力をお願いした。
彼女はやっぱり月に一度は来た。あの執事は来させないようにしていたのか、ヒジカと仲良く話せていた。ヒジカは、町から来た人族のお嬢様が自分に思いを寄せているとは全く考えておらず、気づいていないようだった。
「ヒジカ様! 帽子にアクセサリーをつけてみたんです!」
真っ白い円形の帽子につけたワンポイントをヒジカに見せながら、上目づかいで反応をうかがう。
「オォ、カワイイナ」
背の高い銀髪青目の、ハリウッドスターのように派手な顔の美少年は、薄い褐色の顔を笑顔にして言う。
「――っ! えへへ」
そんなやり取りで、一瞬驚いて、嬉しくてたまらないような表情のリリィ嬢の笑顔。ソージ君が肩を寄せてささやく。
「ねぇ弟。ボク、すごく心が痛いんですけど」
「奇遇だね。僕も胸のあたりがチクチクする」
僕達は胸を押さえながら、リリィ嬢とその護衛達を見送った。
リリィ嬢の目を逸らす対象として、イッサさんの減量とソージ君の増量を急いだ。イッサさんの二の腕も太腿も、もうだっぷんだっぷんはしていない。たっぷたっぷぐらい。
「ヒ、ヒジカ様って、どんな女性がお好――」
「ねぇリリィお嬢様! イッサさんすごく痩せたと思わない!? カッコよくなったでしょ!」
「え、えぇ! 本当にすごいですね!」
勇気を振り絞って好きな男のタイプを聞こうとした可憐な少女は、意を決した質問を潰されると、同じ質問は出来なかった。それを利用して、僕とソージ君は話題を変え続けた。
リリィ嬢は帰り際、聞けなかったことを思い出したのか切ない表情をして背を向けて、結局僕とソージ君は痛む胸を押さえて見送った。
念のためにと思い《隠密LV6》で後をつけて、町とララ家の場所だけは把握しておいた。町はヨーロピアンで、ララ家は洋風の豪邸だった。
文明に惹かれはしたけれど、記憶してすぐに戻った。僕にとって、タマソン村とその住民、ヒジカ達の方が、ずっと大事になっていた。
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