第75話 《超獣化》




 現れた道場主――イッサさんのお父さんは、伸びた白髪で肌も高齢のもので小柄だったが、背筋は図ったようにしゃんとしていた。


「あれは《超獣化》という」


 超サイ〇人かな?


「普段穏やかな一人の亜人が、強い思いで力を目覚めさせて別格の獣化を果たし、特殊で巨大な獣化をしたと伝説にある」


 超サ〇ヤ人かな?


「戦闘力を強いて数値化するとすれば――五十倍ともなるだろう」


 超〇イヤ人かよ。


 ……真面目な話。


 この武道場は、超獣化を伝えることを目的として脈々と継がれてきたらしい。道場主――先生も超獣化は出来ないらしい。


「イッサさんは大丈夫ナノカ?」


「伝説によれば、超獣化は体力を根こそぎ持っていくらしい。しかし、しっかり食い、休めば問題はないという。無防備になるため毎度仲間の下で超獣化を解いていたが、長引いた交戦で超獣化が解けて体力がなくなったところを討たれて死んだとある」


 とりあえずは、安心した。


「改めてー、道場壊しちゃってごめんなさい!」


 座ったままだったから、自然に土下座の姿勢で謝った。ヒジカもソージ君も続く。普通に考えて殺されても仕方ないレベルだ。死を受け入れろと言われれば逃げるけど。


「本来であれば、殺すほどのことだが……、よい」


 ため息を吐きながら、先生は理由を語る。


「先も言ったように、この武道場の本来の目的はいつのものかも知れぬ超獣化伝説の伝承と、超獣化出来る者を見つけることだ。亜人には《超獣化》というスキルがある、それが出来た者がいたという知識が失われないようにすることが第一の目的だった」


 方法も条件もわからない中、その事実まで誰も知らなくなれば《超獣化》は誰も知らないものとなる。存在するスキルを鍛錬で求めるならば、辿り着ける可能性はあるだろう。しかし、そのスキルが存在自体誰も知らないとなれば、永久に失われるに近い。


 ヒジカやソージ君は知らなかったそうだが、亜人で武に関わるならば常識だったらしく、イッサさんは存在は知っていたらしい。


「それがどうだ。せがれが事実、超獣化し、与太話でない真実だと証明出来た。今回はこの時、どの状況でどんな亜人が初の超獣化に成功したのかが記録出来る。倅が自覚的に使えるかはわからんが、大いなる前進だ」


 責めれはせんよ、と話を結んだ。


 確かに、失われた秘伝の技が効果だけだが復活したに近い。しかもその秘伝は個人の戦力を五十倍にする。


「スマナイ。先生」


 ヒジカはヒジカらしく、唇を噛みながら誠実に謝っている。


「なぁに。儂自身、半信半疑だった義務が守る価値のある真実だと判り、嬉しい気持ちが大きい。かわいい倅が証明したことで、存在を伝えるという義務自体が期待された以上の結果で果たされてしまった。もうすでに、道場の存在意義すらなくなってしまったのだ」


 あとは倅が《超獣化》の使用方法まで判明させれば万々歳だと言って、呵々と笑った。


「ナァ先生。俺と弟ガ、イッサさんの超獣化? の前に意識ガナクナって必死で殺し合イソウにナッタみタイナンだガ。ソレにツイテはワカラナイカ?」


「うーむ。少なくとも、超獣化関連の伝承まわりには、そのような記述はなかった」


 わからないらしい。


 その謎は、出来るなら解いておきたかった。僕が本当は魔物だからだろうか? それとも僕とヒジカが二人とも勇者適正を持っているから? 勇者と勇者が戦ったら、片方しか生き残らないような仕組みを誰かが作るか? メリットが読めない。


 なら、魔物だからっていうのが濃厚かな?




 寝ているイッサさんが起きるまで、先生も含めて四人で見守った。普通に起きて、なぜか一昨日走り切った筋肉痛もなくなっていたそうだ。


 一人称が拙者じゃなく俺、になっていたのが気になった。さすがに数日走っただけではだっぷんだっぷんの腕はやはりだっぷんだっぷんのままだった。太腿もだっぷんだっぷんのままだろうが、心なしか顎は少しだけ輪郭がマシになった気がする。ヒジカの旅立ちまでにはマシになっているだろう。


 そして一番の変化が、しっぽが生えていたことだ。


 サイ、いや、もう何も言わない。



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