第73話




 思ったとおり。いや、思った以上にイッサさんは頑張ってくれた。


 途中からは意識朦朧として、後半は意識がなかった。それでも、陽が赤くなるまで全力で走り続けた。


 声をかけても聞こえておらず、走り続けた。仕方ないのでジャンプして首の後ろを打って気絶させた。必死な形相だったけれど、何かすっきりしたような寝顔だった。もうこれをやる必要はないだろう。僕も前世でやった確信があるけど、そもそもが間違った修行法なのだ。



    スキル《手刀打ち》を獲得した!



 さて、ソージ君と同じように気絶してくれたようなので、鑑定もしておく。





  《イッサ・コドム 亜人族(大猩々) ♂》

   【ステータス】

    LV 2

     HP  12/511【瀕死】

     MP   33/33

     POW  156

     DEF  152

     SPD   31

     MAG   22

     INT   83

     LUC   92




   【職業】

    ■■の護り手



   【状態】

    ふつう


   【スキル】

   《獣度調整》

   《振り下ろすLV8》

   《薙ぎ払うLV7》

   《ぶん回すLV9》

   《持久LV1》

   《突進LV1》

   《殴るLV2》

   《隠密LV1》

   《眼力LV2》

   《威圧LV3》

   《統率者LV1》

   《かばうLV7》


    【パッシブSKILL】

     《武道の素養》

     《集中LV3》

     《恵体》

     《強力LV5》

    《強固LV4》

     《痛覚軽減LV1》

     《苦痛耐性LV1》

     《南の森の知恵LV1》

     《守護者》



    【成長スキル】

     《見取稽古LV2》




 なるほど。HPやATK、DEFが高い傾向は予想通りだけれど、高さは予想以上だ。攻撃と防御は僕の四倍近くある。


 レベルの低さは、威嚇が多かったからだろう。狩りの形式から見ても、イッサさんがトドメを刺すことは少ないはずだった。修行やスキルを使うだけでもステータスやスキルLVは上がるけれど、倒さなければ本人のレベルは上がらない。


 そして、ステータスの謎にも思い当たる。外傷がないのにHPが瀕死にまで減っていることだ。スタミナもHPに反映されているんだろう。まぁ実際、不可分なところはある。スタミナ減少が理由のHPの減少なら、休むだけでも回復しそうだ。


 ステータスを見ても、イッサさんの修行内容はほとんど変えなくてもよさそうだった。体づくりを優先。ただ、レベルを上げる必要があるのでイッサさん本人にも倒してもらう必要がある。


「そんなところかな」




 ガリガリガリクソンなソージ君は役に立たないので、ヒジカを呼んで二人で道場まで運んだ。


「ナァ、イッサさんは大丈夫ナノカ?」


「うん! 気絶したままだけど、水だけは口から無理やり飲ませたから大丈夫だよ」


 ヒジカは、それ本当二大丈夫ナノカ? とでも言いたげな顔をしていたけれど、大丈夫大丈夫と笑って言い聞かせた。


「……イッサさんは、何でここまでやっタンダ?」


 ヒジカの真剣な表情と、僕には答えられない質問に、ちょっと黙る。夕陽に染まる銀髪と、僕よりは薄い褐色の肌の精悍な顔。そんな美少年の真剣な表情だ。ちょっとドキっともする。


「……」


 いいなー。僕自身も整っている顔の自覚はあるけれど、しょせん十歳相応の顔だから、かっこいい要素がないんだよねー。どうあがいても幼いから、かわいいが関の山だ。


「イや、ナンで黙ル?」


 ホラ! その点十五歳のヒジカは、不思議そうな表情をするとかわいいまで担えちゃう。青い瞳の目が、若干の不安そうな形をつくると――もう! まぁ、真剣に答えよう。


「あ、ごめん。イッサさんが重くって、聞いてなかった。なに?」


 まぁゴマカすんだけど。重いのは本当。ATKだいぶ下がってるし。


「……イイ。何でもナイ」


 まぁ、優しくて聡いヒジカなら、引いてくれるだろうと思った。本来、僕に訊くべきことじゃないのだ。それでも訊いたのは、本人に聞きずらかっただけ。ちゃんと相手のことを考えてあげればわかるハズだ。ヒジカが勇者の旅にイッサさんたちを誘いたいけれど不安なように、二人も誘ってもらいたいけど断られたくないんだってことに。


 あと! 目の前に! ぜっっったい着いていくって決めている! 強くてかわいい男の子がいるってことに!!!



 ゴマカした後の会話は、ほとんど普通だった。今日の夕飯は何かなーとか、ソージ君姉弟が来ることとか、イッサさんの頑張りとか、お父さんのこととか、お母さんのこととか。


 夕焼けはまだ赤い。赤さに焼かれるようだった。兄のようなヒジカと話しながらの帰り道。食事で泣きそうになることはなくなったけれど、夕焼けに焼かれているとなんだか涙が出そうだった。


 偉そうなことを考えているけれど、やっぱり僕もまだ子どもだ。


 戸惑ったのは、イッサさんを武道場に帰してからだ。


 すでに夕陽も沈み、星明りと月明りしかなくなったタマソン村。ヒジカは空を見るようにアゴを向けて、僕を見るともなく訊く。


「ナァ。俺とは組手しナイノカ?」


 これも、答えにくい質問だった。けれど、さっきみたいなわずかな正当性もない。


「……ん。明日しようか?」


「……アァ。ヤロウ」


 それきり、お互いに黙ってしまった。マズい予感があった。多分それは、ヒジカも予感しているんだ。



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