第60話 仲間たち(2)
「アァ、アの門にイル奴ラだよ」
ヒジカの目線の先には、長身の大きな男と、スラリとした細身の少年がいた。
……良い風に言った。印象そのままに言うと、巨デブとうらなりガリだった。
巨デブは優に2メートルは超えていて、You're shockなハート様を彷彿とさせた。凶悪な面はしていないし、髪はちゃんとある。
ガリ男にしても体感150センチくらいの僕より背が高いのに、胸も腹も薄く、腕も脚も細かった。
なんか彼らを見ていると、自分の中で沸々とある感情が沸いてきた。少なくとも今生では初めての感情のはずなのに、どこか経験のあるような。前世の影響かもしれない。
ヒジカの身長は、190センチいかないくらいだろうか。三人のうち二人は、見上げ続けると首が痛い。
「やぁやぁ勇者殿! そいつが例の記憶なしっ子ですかな!?」
巨体から発せられるゴリラ、大猩々の声はデカい。僕たちに聞こえればいいのに、村中に聞こえさせるようだった。大きな声が腹を震わせている(逆かも)ので、ブタゴリラって感じ。
勇者殿はよしてくれと、ヒジカが応える。
村中にヒジカが拾った僕のことは知れ渡っているらしい。昨夜に大泣きした時、村中の人が集まっていたみたいだし、それはそうだ。がぁあー恥ずかしい!
短い逆立つ黒髪は、気骨が通ったように固そうだ。肌は浅黒く目は大きい。喋り方はキモいが、笑った顔が優しげだった。
「ふぅん。ボクと同じ年くらいって聞いてたけど、小さいんですね」
うらなりの狐の亜人は、一言で言えば惜しい少年だった。耳より少し長い金糸の髪は、サラリとしていて頭が動くたびにふわりと揺れる。ゴリ、大猩々と対照的に肌は白い。
目は切れ長で、僕を値踏みするような視線。顔つきからして皮肉っぽい印象だが、どうしてもあどけなく、声は生意気な感じ、に
生後一ケ月の僕が言うのも何だが、おしゃまな感じなのにかわいらしさはない。細過ぎて不健康そうなのだ。
「ヒジカに助けてもらった蛇だよ! 狩りのことも何もわかんないけど、役に立つからよろしくね!」
昨日泣いてた印象を振り払いたくて、明るく挨拶をしてみたが何だかしっくりくる。生前の僕は案外、明るい社交的な好人物だったのかもしれない。
ただ反応は、少し驚いたような顔だった。
「おほー。記憶喪失っていうのに、ずいぶん明るいんですな?」
「辛いことがあったって聞いてましたけど。そっか、それも忘れてるんですね」
ちょっとあっけらかんとし過ぎたかもしれないけど、自然に会話に入れた。もちろん、三人の優しさあってのことなんだろうけど。
話しながら森に向かう道中の草原は、何だかんだ楽しかった。僕は今まで、相棒としか会話をしたことがなかった。
逆立つ黒い短髪の、巨デブの男。
金糸の髪を風に流す、切れ長の眼の細いうらなりのガキ。
銀髪から覗く狼の耳を立てて、青い目で遠くを見る勇者。
狼とゴリラと狐だけど、なんか西遊記っぽい。どこか『しっくり』きていた気がする。
三人に加えて、白い長髪で、赤い目を持つ褐色の小さな僕。その四人で森に向かって、草原を笑いながら歩く。
記憶喪失設定の僕が明るいので、暗い雰囲気になることは一切無く、ただただ楽しかった。
三人の今までの暮らしを聞いた。恥ずかしい話や、誇らしい話。
それぞれがからかうような表情や、恥ずかしがる顔、ちょっと自慢気な顔。そんな表情もあいまって、すごく面白かった。
ソージ君はやっぱりどこか斜に構えて皮肉っぽいコメント。ヒジカがそれを、からかうようにたしなめる。イッサさんが(ややキモい笑い方で)大笑いする。話す時もイッサさんの声はデカいが、それが話しやすい空気をつくりもする。
ヒジカは迷っていたけれど、勇者の冒険には二人を誘うべきなんだろう。
そう思った。
三人は、これまでのことを楽しく話したが、これからのことをあまり話さなかった。
二人は多分、勇者ヒジカのこれからの旅に誘ってほしいと思っている。
それでも、ヒジカと似たような理由で自分からは言い出せずにいる。
「いよいよ、十ヶ月後にはヒジカも王都で正式に勇者になるんですな!」
そう言ったブタゴリ……イッサさんの声は、少し作られたセリフのような文章だったし、それぞれが続けたい言葉を言わず、他の言葉を考えようとするような間があった。
別れが決まっていて、寂しくなるな、なんて誰も思ってはいない。一緒に旅をする楽しみに期待しつつ、それを言い出そうとして言い出せず、気まずいような。
何故そこまで具体的に、間から感情を読めたか。
簡単だ。僕が同じことを思っていたのだから。僕も三人と一緒に、勇者ヒジカの一行として戦っていきたい。
この草原で歩く姿がしっくりくる三人との冒険は、きっともっとしっくり来て、絶対に楽しい。
でも僕は弱いと思われているだろうし。幼馴染の二人が言ってないのに今日出会ったばかりの僕が言い出すのもどうなのか。
でも言いたい。
そんな葛藤で心がせめぎ合う中、僕たちは黙ってしまった。
誘いたいヒジカ。
誘ってもらいたいイッサさんとソージ君。
言い出したい僕。
そんな沈黙だった。
「そ、そういえば今日の狩りは、どのようにしましょうか?」
「オ、オゥ。一人増えたしな」
狩りの方針をどうするか。その議題で沈黙をとりあえず破ることで、話を逸らしてしまった。本来望む進路とは、違う渡りの船に乗ってしまう。
それに乗っかってしまう全員、僕も含めて初心な少年だったのだ。
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