第59話 仲間たち(1)




 朝起きると、村中のみんなの前で泣き叫んだ恥ずかしさで、褐色の顔が熱くなった。酔い過ぎて、やらかした記憶が点々とある朝はこんな感じなのだろうか。


 ガバと上体を起こしたまま、しばらく悶々として動けなかった。


 頭から振り払うように立って、ヒジカの部屋だろう小部屋から出た。ヒジカの両親の表情が、僕の顔を見て涙ぐんだものになった。


 朝食も美味しかったけど、昨日のように泣き叫ぶことにはならなかった。


 それでも心配そうにこちらをちらちらと窺うヒジカの両親の視線を受けて、また顔が熱くなる。


「オ? また泣クノカ?」


 そう言ってからかってくれたヒジカを、ありがたいと思った。


 泣かないよ、と少し怒ってみせると、両親も安心したようだった。本当は、潤んでいたんだけど。


 ヒジカの家を出ても、続いた。


 村の人からの温かい目を感じる。涙ぐむ人たちもいた。いい人すぎるのが逆に辛い。トージス家だけじゃないのが。


 フェレットのおばさんからは、これから幸せにおなりと背中をバシバシ叩かれた。


 そんな優しさから逃げるように、ヒジカの巨体に隠れながら村の門に向かっている。


「基本的に狩リは《魔の大森林》でヤルンダ」


 歩きながら教わる。どうやら僕の生まれた森は《魔の大森林》と呼ばれているらしい。


 森の浅いところは動物のような魔物が、深いところに行くほど高位の魔物が生息していると言われている。


 知っている。そうだよとは言わないけれど。


「ふぅん? どんな獲物がいるの?」


 僕よりかなり高いヒジカに話しかけると、横から見上げる形になる。


「俺達が狩ルノは、鹿や馬が多イナ。鹿は角に、馬は後ろに向カッテノ蹴リに気を付けナキャイケナイ」


 どうやら僕が【邪神】に放り投げられて越えた森には、草食動物のような魔物が多かったようだ。


 食える機会があるなら、胃袋ポケ〇ン図鑑を埋めたいところだ。


「狩リはチームでヤル。家族や同年代の、気心が知レタ奴ラと組むことが多イ」


「ヒジカはいつも、誰とと組んでるの?」


「幼馴染のイッサさんと、ソージって奴だ。イッサさんはゴリラ……って言うと怒るンダガ、ゴリラの亜人ダ」


 結局言うんだ。目の前にいる時は、大猩々だいしょうじょうと呼ばなければならないらしい。イッサさんはヒジカの二つ年上で、剣武道場の息子だそうだ。フルネームはイッサ・コドム。


 ソージ・オキ君は僕と同年代くらいで、狐の亜人だという。


「二人も、勇者としての戦いにはついていくの?」


「頼ムつもリナンダガ……」


 狩り以上に信頼が必要な旅のはずなので、当然そうなのかと思ったけれど。ヒジカは言葉を濁した。


「なんだが?」


 困ったように、右手の人差し指で頬をかく。


「マダ、言イ出せてナクテナ。狩リ以上に、危険な旅になルワケダシ」


「……なるほどねぇ」


 大事だからこそ、信頼しているからこそ、巻き込んだり断られることを心配しているんだろう。


 相棒を協力せざるを得ない場所に連れて行き、無理やり手伝わせた誰かとは大違いだ。


 …………。


 まぁ、僕なんだけど。



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