第42話 月の下、蜘蛛と蛇(3)
今度は俺は、のそのそと近づいた。
見えないままで同じことをしても、身体が伸び切って動けないところにカウンターを貰う。
格好の獲物になるだけだ。
のそのそと近づく。相棒は俺を待つ。
《瞬発LV8》《破砕牙LV3》×2
相棒は避ける。
《瞬発LV8》《破砕牙LV3》
追いかける俺を《蜘蛛糸》の噴射で避けたり、逆に俺の首を《蜘蛛巣》で絡めようとしてくる。
避け様に、俺を《毒爪》で引っ掻いていくことも忘れない。
時には隙を作ってしまい、相棒から仕掛けてくることもあった。
《蜘蛛巣》
俺の避ける方向に、また《蜘蛛巣》。避けるのが精いっぱいになる。
だからこそ、それをさせないように俺は、
《瞬発LV8》《破砕牙LV3》×2
を出し、相棒の避けた先を
《瞬発LV8》《引っ掻くLV2》《毒爪》
で追いかける。
牙にまでは当たってくれない。たまに、俺の首の肉に当たる。
相棒の幼女の小さな体になら、爪(牙)が当たらなくても俺の巨体の首が当たればそれなりにダメージが入る。
俺は相棒の《蜘蛛巣》を出させないように、襲い続けるしかない。《蜘蛛巣》を出させるだけでも、この《蜘蛛巣》の囲いの中で俺が動ける範囲が狭くなる。
ひょっとしたら、相棒が最初に俺の中心の頭、縦に割れた邪眼に《毒牙》を入れたのも『糸を燃やせる邪眼』の存在を危険視したからかもしれない。
残念ながらそんなスキルはなかったが《恐怖の邪眼》《麻痺の邪眼》も使えなくなった。
襲い続ける限り、相棒は《蜘蛛巣》を出せない。しかし、俺の牙も当たらない。
相棒は《毒爪》で引っ掻く。俺は偶然当たるような首でダメージを与える。
お互いに削り合う、持久走をやっている気分だ。襲い続けなければならない俺、避け続けなければならない相棒。
ATKはそこまで意味がない。HPもDEFも体力も俺に分がある。しかし戦闘は、相棒に分があった。
相棒は強力な《毒牙》を俺に一度入れ、それより弱くはあるが《毒爪》で継続的に俺に毒を入れ続けている。
繰り返す。
繰り返し、繰り返す。
俺は襲い続け、相棒は避け続ける。
使っている《持久》や《瞬発》、《引っ掻き》《毒爪》《毒耐性》等のスキルが上がったという天の声が何度も聞こえた。
しかし、それでも状況は変わらない。変えるようなスキルでもない。
状況を長引かせるだけのスキルが上がる中、それでも繰り返す。
繰り返す。
繰り返し、繰り返す。
「あ」
どれだけ繰り返しただろう。すでに相棒の脚は数本折れ。俺の首には無数の引っ掻き傷がついた。
相棒が一音だけ出して避けながら《毒爪》で引っ掻かずに距離を取ることを優先した。着地すると同時に、さっきと同じように右手を左から右へと平行に流した。
襲い続けることが俺のテーマだったのに、それができなかった。
毒はとっくに回っている。頭なんて働かない。
俺に出来ることは、なおのろのろと相棒に這い寄ることだけだ。
一本、細い糸が張ってある。見える糸だ。さっきの手の動きで張った糸だろう。
あぁ億劫だ。繰り返しの繰り返しの繰り返しに、疲労は蓄積されていた。細い分弱い糸を。そのまま進んで切って前進しよう。
そう思ったのだが、何かの直感で真ん中――、手で言う人差し指中指薬指の三つの頭だけは、引いた。
俺が見た景色は、両端の二つの頭が血飛沫を上げながらゴトリゴトリと落ちるものだった。
ゾッとした。
《先見の明》は《超直観》に進化した!
天の声で我に返る。
ピアノ線トラップかよっ!
戦慄するまま《超直観》が思考を加速させろと言っている。
狭くなった視界に映る景色。
俺の五分の二の首から大量に上がる血飛沫。
相棒の驚いた顔も血で染まる。
血飛沫で赤く染まる糸。
俺と相棒の間に赤い線は――無い。
動かせるか? 動かせた。
いつまで使える? 不明。
なら? やれ!
《瞬発LV9》《突貫LV4》
ピアノ線をくぐるように低く突っ込んだ。相棒は猛スピードで突っ込む俺を前にして、困惑しつつも俺の首と首の間を通り抜ける。
今まで通りで予想通り。裏をかくのが好きな相棒は死角に入る避け方を好む。
それは裏であれば裏であるほど、好む。
だから相棒は、俺の真後ろに向かって跳んだ。《斬》属性の付与された自分の糸の方へと。
俺は今度こそ俺たちを囲む糸の檻に突っ込んで、身動きが取れなくなる。
しかし、相棒を視線からは外さない。
相棒の着地する位置を《演算処理LV6》と《空中戦LV4》で掌握。位置は――、おあつらえ向きだ。
《並列意思LV1》《破砕牙LV3》
相棒はクール。俺が糸に絡まっても俺から視線を外さない。
相棒は注意深い。相棒の死角を突くには、相棒の知らない攻撃でしか突けない。
ばくん。
相棒は、俺の落とされた右端の頭に食われた。
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