第41話 月の下、蜘蛛と蛇(2)




 プシャ、と小気味よい音がする。今の俺には恐怖の音だ。


 本来、お互い向かい合って戦う魔物ではないのだ。俺は急襲して殺す蛇。相棒は動きを止めて狩る蜘蛛だ。


 広範囲に《蜘蛛巣》を広げるのは、当然だっただろう。



    《瞬発LV8》《稲妻蹴り》《破砕牙LV3》×5


 三度まで《三角蹴り》のように方向転換できるようになった《稲妻蹴り》で這い寄り、避けながら距離を詰める。


 注意しなければいけないのは、俺たちを囲う《蜘蛛糸》に触れてはいけないということだ。


 それでもあの夜の状況と、似ている。


「木の下穴に、よう似とるわ!」


 相棒も同じことを思ったのだろう。


 叫びながら跳んで、俺の首の間を単純なSPDで通り抜けていく。


 すり抜け様に首を《毒爪》で引っ掻きながら。長い黒髪がなびいている。


「やっぱ速ぇな!」


 あの時、勝負になっていても、俺が一噛みで殺すか、相棒が俺を《蜘蛛糸》で封じながら殺すまで攻撃を続けるか、になっただろう。


 左端の首を後ろに逸らせて噛む。


 それを相棒は《蜘蛛糸》の噴射の勢いで避ける。俺は噛もうとした口を封じられないよう、首を無理やりに捻る。


「おーおっかないおっかない」



    《引っ掻きLV2》《毒爪LV1》



「おお?」


 身体を掌に、首を指に見立て牙で引っ掻く。


 残念ながら牙は引っかからず、首の一部が当たっただけだった。


「チっ! スキルLVが低い!」


 今使い方を思い付いたこれでは、さすがに当たらずダメージは小さい。


「何やぁ、知らん技使いよって! ならこっちも……!」


 相棒は六本の脚で着地する。そして、右手を左肩から右へ。伸ばしていくように流した。


 ……!


 相棒も何かをした。もしくは準備をした。


 したことはわかるが、何をしたかはわからない。


「お前、何か隠してたな?」


「別に隠してたわけやない。使う機会がなかっただけや」


 ……どの道、俺に中距離で攻撃する術は無い。俺にあるのは、近距離の攻撃手段だけだ。


 なら距離を詰めるしかない。



    《瞬発LV8》《突貫LV4》

    《思考加速LV4》《並列思考LV9》

    《破砕牙LV3》


 俺の最速で突っ込んだ。


 間合いは15メートル、俺の体長ほども離れていないが《瞬発LV8》での《突貫LV4》なら最高速に乗れる。


《思考加速LV4》で体感時間を伸ばし《並列思考LV9》でカウンターにも備える。


 注意しつつ高速で相棒に《破砕牙LV3》で噛みつく――、


「がぁぁあッ!」


結果は、相棒の目の前で止まった俺が、真ん中の頭の邪眼に《毒牙》を入れられた。


 避けられる可能性を考慮して、残る四つの頭はいつでも攻撃できるようにしていた。


 しかし《毒牙》の毒が強烈すぎる。


「ぎ、が、あ……。あ、あぁぁああああああ!!!」


 恥も外聞もなく、巨体を振り乱してのたうち回る。お陰で相棒は追撃できなかったのだろう。


 巨体で痛みにのたうち回りつつも警戒し、何が起こったのかを考える。


 俺の《瞬発LV8》での《突貫LV4》は、身を捩って尾でブレーキをかけなければ自分でも止まれない。


 おそらく障害物がない場合、100メートル以上なければ、自然には止まらない。


 それが、目標の15メートル先の相棒まで届かずに止まった。


 加速した思考の中で、何かに触れるあるかなきかの感触が四度あった。痛みの中で答えは出る。


 一度距離を取りたい。俺は尾で《薙ぎ払うLV2》し、相棒が中に跳んだところを四つの頭で《破砕牙LV3》×4を使った。


 また感触があった。速度が下がり、届かずに動きは止められる。相棒は《毒爪》で俺の首を引っ掻きながら跳び、距離を取った。



    《並列思考LV9》は《並列思考LV10》に上がった!

    《並列思考LV10》は《並列意思LV1》に進化した!



「……さすがにあいぼーとは、サイズ違い過ぎるわ。パワー対決なんかなったら、かわいらしいウチは一たまりもあらへん」


「見えない糸で、お前に触れもしねぇけどな」


「気付いとったんか。まぁあいぼーなら気付くやろな」


 細すぎて見えないが、俺の身体には細い糸が粘着しているのだろう。


 細いだけに、見えないがいつもの糸より丈夫さは落ち、すぐ切れる。しかし俺の速度も勢いも糸に触れる度確実に落とされる。


「確かに、今までは使いどころがなかったな」


「ウチら、基本真っ向勝負で戦うとかせぇへんからな」


 真っ向勝負でも裏をかく。相棒は幼女になってもクールだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る