第43話 月の下、蜘蛛と蛇(4)




 ……終わった。


「あぁぁぁああああー! ビビったぁぁああ!」


 いやマジで! 頭を二つ落とされた時は死ぬかと思った。


 よかった。頭五つあって。


 そのままにはしておけないので、相棒を助ける。



    《並列意思LV1》



「うっお! 痛ってぇぇえええええ!」


 痛みに耐えながら、口の中に相棒を入れた、さっき落とされた頭の口を開く。


 舌先でちょいと押し、相棒を吐き出す。


「ふぇえ」


 幼女らしい声を出す相棒の無事を確認して《並列意思LV1》を切る。


「痛ぇぇえええ! 死ぬほど痛ぇぇえ!」


 首からぶった斬られた頭に《並列意思LV1》で意思を持つと、激痛まで感じてしまう。


 よく相棒を口に入れられたし《破砕牙LV3》を外せたと思う。


 おかげで殺さずに済んだし、俺も死なずに済んだ。


 ふぇえ、と呆然としていた相棒は、少しして自分を取り戻した。


「……あー、ウチの負けやな。勝ったと思たんけどなぁ」


 右手で黒髪ロングの頭をかく。


「……そうでもないさ」


「何や? 相棒がその気なら《破砕牙》でウチ噛み殺されたんちゃうん?」


 さっき手に入れたスキル《超直観》で、絶対に相棒を殺してはいけないとわかった。


 それは、友だからとかいう、感情的なものでもない。


「周り、見てみろよ」


 俺たちは1対1で戦いたかったので、相棒は下僕蜘蛛に待機命令を出していた。


 下僕蜘蛛たちは数を増やし、そのすべてが殺気立っている。殺気だけで俺くらい殺せそうなほどに。


「……なるほどなぁ」


 待機命令を出していた女王が死ねば、命令は意味を持たない。


 感情のままに忠義のままに《蜘蛛糸》で動けない上に弱り切った俺を、下僕蜘蛛達は食い殺しただろう。


「怖いオンナだよ。お前は」


 強くてなかなか殺せない上に、殺せたとしてもその後も恐ろしい。とんだ毒虫で毒婦だ。


「イイオンナっても言えるんちゃう?」


 そう言って笑う。


「「てか」」


 笑い合う。空を見ると、もう木漏れ日が落ちている。何時間戦っていたのか。


「「腹減った」」


 そう言って、高らかに二人で大笑すると、下僕蜘蛛の殺気は収まった。


 恐怖しているのは、蜘蛛の巣に捕らわれて朝食となる魔物たちだろう。





 空腹の俺たちは、外を囲んでいた魔物たちをすべて平らげた。


 相棒は自分の《蜘蛛巣》に粘着されないらしく、俺を普通に糸から剥がせた。


「うぉ……、自分食うんかいな」


 相棒の《斬》属性付与の糸に断ち切られた俺の頭は、自分で食った。


 古参の下僕蜘蛛のように、レベルアップしても回復しない傷跡になるかと心配したが、その後魔物たちを食っていると、時間はかかったが生えてきた。ドン引きである。


 さすがに自分を食ってもスキルレベルが上がったりはしなかった。しかし《義ある三頭の邪蛇》になったりせず、安心した。


「えぇ……、どないなってんねんお前の身体」


 と、相棒は引いていた。


 正直、そんな予感はしてた。トカゲだって尻尾切ってもまた生えるし。


 勘に従うことも《超直観》を得た今の俺には、良い選択だろう。


 食事の間、相棒と話した。


 やはり「あ」という時の声は《斬》属性付与を得た天の声を聴いた瞬間だったらしい。


 そこで勝てるかも、と思ったそうだ。初めて身につけた《斬》があそこまで切れ味を持っているとは思わなかったらしいが。


 鱗に守られた背面ならまた違ったかもしれないが、やはり俺の首から腹、尾の前面にかけては柔らかい。


 正直、生きるためには不要な死闘だったが、目的は果たせた。


 もう俺は、相棒に引け目を感じることもない。俺と相棒は対等だ。



    ―義ある多頭の邪蛇は、アルケニー(幼)とパーティを結成した―



   【蛇行せし王の神への復讐】のエピソード

    【幼少期からの相棒~友であるために~】を達成しました。

     《蜘蛛糸LV1》を獲得しました。



   【絡新婦の慈愛】のエピソード

    【戦いもまた慈愛①】を達成しました。

     《第三の眼》を獲得しました。



 ……また来たよ。不穏な天の声。


 毎度メリットが大きいだけに、怖いんだよなぁ。


 そもそも神への復讐って何だよ。不穏すぎるだろ。神なんていねぇよ。ずいぶん前に死んだ。


 ……いるの? 神。


 いるかもなぁ。剣と魔法の世界だし。勇者も魔王もいるっぽいし。


 しかし復讐っていっても、恨みどころか何かされた覚えもない。


 蛇としての人生(蛇生?)も、何だかんだ今のとこ楽しんでるよ。


 もう相棒を巻き込んでいることは、否定しようもない。それでも、相棒なら何でも乗り越えるだろう。


 ……勝手かな? 勝手だろうな。


 しかし、勝手ついでに涎が出るほどマジで羨ましかった《蜘蛛糸》を獲得した。


 俺に無かった遠距離への攻撃であり、その万能性は隣の幼女を見ての通り。


 もともと持っていない俺は、相棒ほど十全に使えはしないだろうけど、それでも便利なもんは便利だ。


「しっかし、何や夜の魔物も美味いけど、期待ほどやないなぁ」


 相棒には、この物語(?)系のエピソードは聞こえないらしい。


 賢い相棒のことだから、何か俺に影響を受けているとは勘づいているかもしれないが。


「この感じだと当分楽勝っぽいし、もうちょい北上してみようや」


 相棒との闘いでスキルレベルが結構上がっている。さすがにお互いに倒していないので、レベルは上がっていないが。


「せやなぁ。つーかお前が寝せてくれへんで疲れたし、一回寝ぇへん?」


 言うが早いか《蜘蛛巣》でまた40メートル四方の立方体を作って横になる。また起きたらご飯(魔物)がひっかかってそうだ。


「おやすみ」


 さてさて、戦ってる最中に《並列意思LV1》なんて面白そうなスキルも手に入れていた。《解析LV7》の時に《義》も調べることが出来たし、調べられることは増えているだろう。


 とりあえず寝るが、起きたら相棒と北進しながら今までよくわからずに使ってきたスキルについて《解析LV8》してみよう。



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