第35話《アルケニー(幼)》




「おっ。大漁大漁」


 昨日相棒が張った蜘蛛の巣に近づくと、そこは死屍累々だった。


「……明らかに、昨日より増えてね?」


《蜘蛛巣》で動きを封じ込めて《毒牙》《毒爪》を入れた魔物たちの周囲。


《蜘蛛巣》の周りにも多くの魔物が捕らわれて、死んでいた。


 おおかた、巣にかかった魔物を狙った魔物たちがかかったのだろう。


 しかし《粘着》で動きを封じられるのはわかるが、死ぬ理由はわからない。


 相棒に訊いてみた。


「あぁ。昨日一回目の《存在進化》から、ウチ《毒液付与》も使えるようになってん」


 巣を張った《蜘蛛糸》には《毒液付与》をしていたということか。


 やけに早い相棒の《存在進化》には、毒巣で死んだ魔物たちの経験値も入っていたことが理由だろう。


「ま、こんだけ死んでりゃレベルも上がるわな」


 もはや《蜘蛛巣》が見えない。寄ってきた魔物が捕らわれ、捕らわれた魔物はさらに魔物を誘き寄せ、さらにその魔物が――と連鎖していったようだ。生物濃縮?


 下手したら、巨大ムカデのデカい経験値分くらいはここで稼げてそうである。


「こなれてきたとはいえ、さすがにウチ一人で全部は食えへんなぁ」


 そう言って、こちらを見上げる。


 幼女の姿で見上げられれば、俺も応えないわけにはいかない。


 下半身が蜘蛛でも。


「じゃあ《突進猪》食っていいか? お突進いらないだろ」


「どっちにせよ、ウチは食うことじゃスキル手に入らへんわ」


 相棒に聞くところによると、やはり《消化吸収能力LV6》は特別らしい。通常は食った魔物からスキルを得られるのは、奇跡レベルで珍しいことなのだという。


 相棒は今までの蜘蛛生で一回しかなく、それも自力で得られる《瞬発》だったそうだ。


「《森狼》もええでー。ただ《森狼の長》は美味いからウチが食う!」


 そういうことになった。




 強敵大ムカデを消化し終わると、さすがにスキルが大きく伸びた。


 各基礎能力向上まであり、かなり数値も上がっていた。


《持久LV2》と《毒爪LV1》は新たに手に入ったものだ。後者は相変わらず爪がないので使えないが《持久LV2》は世話になるだろう。


 基本戦術の《破砕牙LV2》《締め付けるLV3》が上がったことは、直接的な戦力アップ。


 巨大ムカデも《邪眼》を使っていたので《邪眼LV9》も上がって、《恐怖の邪眼LV1》《麻痺の邪眼LV1》に分かれた。


《消化吸収能力LV6》になったこともあってか、消化は早くなり、この短時間ですべて消化し終わっていた。


「ほな、いただきまーす!」


 幼女の声で言う相棒が、すでに消化しているのも驚きだ。


《存在進化》した《アルケニー(幼)》は、一目瞭然で俺より高位の魔物なので、その辺りが大きいのだろう。


 幼女のくせに。ちょっと悔しい。


 そういえば相棒の進化前の《智ある猛毒大蜘蛛♀》の《智ある》は消えていたらしい。


 今回の《存在進化》は正に存在ごと変わっている。カエルがオタマジャクシになるような、種の変態とは明確に一線を画す。


 明らかに格が高い魔物になった相棒の進化には《智》が関わっているのかもしれない。


 俺も今回、まるで納得できないが《義》が名前に付いていた。


 そう考えると、次の《存在進化》が楽しみだ。



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