第6話 旅立つは即
……蛇かぁ。
神性のモチーフによくなっているとかは聞いたことあるけど、ぶっちゃけそんな良いイメージはない。前世でいいことをして、勇者適正とか大層な枕詞のついた成長スキルをもらったのかと考えたのだけれど。
ご褒美として蛇に転生させてあげましょう?
ねーよwwwwww。……ねーよ。
そんなことを考えている内に、さらに殻は手狭に感じるようになった。体が大きくなっている。
《恵体》のパッシブスキルのお陰で、成長が早いのかもしれない。正直、空腹を感じてもいる。
殻を《分析》しても、壊せそうだとかの情報は出てこず《殻》であることしかわからないけれど、いけそうな気はしていた。
ツン。
コツン。
コン。
うん、軽くつついてみたが、いけそうである。
俺は首を引いてみて、力を込めて前に出してみた。
パキッという小気味よい音がして、殻は割れた。
少し怖かったので、目は閉じてしまっていた。
しかし、目にそこまで頼っていないこの体では、生まれ出た世界がどういうものかピット器、いや《第三の目》で理解できた。
「……森かぁ」
目を開き、舌を出して状況を把握する。母蛇は、俺達卵を木の根のくぼみで産んだらしい。地面近! と思ったのは、生前の感覚だろう。
《分析》を周囲に使ってみる。
『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『卵』『卵』『卵』『草』『卵』『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
「草www」
言って、殻から這い出ながら笑ってみる。蛇なので上手く笑えているかはわからない。というか蛇の笑い方がわからない。
卵は、俺の周囲にある兄弟姉妹たちだ。俺が出て来た殻と同じ卵である。
周囲は草と木しかない。視覚に頼って見ると、暗いことがわかる。上を見上げてみても木々が鬱蒼としていて、かろうじて日は出ているのだろう程度のことしかわからない。
温度は暑くも寒くも感じない。生きるのに適切な温度なのだろう。湿度は高い。
卵が湿っていたことが、俺が殻から出れて、パキッという小気味よい音の理由だろう。
「しかし、どうするべきか」
おそらく俺はかなり早く生まれてしまった気がする。なんとなく、兄弟卵たちはしばらく出てこない確信があった。
「とりあえず、啜ろう」
俺は自分のいた卵の殻に頭を突っ込み、中の液体を啜った。なんか栄養が豊富そうな気がしたからだ。
どうするべきかというのは、ここに留まるか移動するかで迷っているのだ。
母の姿は見えないが、たまたま居ないのかもしれないし、産んだら放置するタイプかもしれない。ただ、戻ってきたら戻ってきたでどうなるか。
「なーんか、蛇って共食いしそうなイメージあるんだよなぁ」
蛇の生態については詳しくないが、種によってはするだろう。自分の種がどうなのかはわからないが。
「離れておくにこしたことはないよね」
そう思い《分析》を使いながら、草むらに入っていく。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
勇者がどうとか闇がどうとか、気になりはするが気にしている場合ではないのだ。恵まれた成長スキルも、成長する前に死んでしまえば意味が無い。
生まれたばかりの蛇たる俺は、間違いなく弱い。ならば、当面の目標は生きることだ。
そう覚悟して、ずりずりと草の間を這い進んだ。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
這い進んでいくと、変化はすぐに起きた。
《分析》の熟練度が一定に達した!
《分析》は《解析Lv1》になった。
どこからがアナウンスが聞こえた。どうやらスキルが変化したらしい。
しかし、このアナウンスも謎である。先ほど歩きだしたというか這い出たときも、
《大地■■の加■》を獲得した!
《転生者》の称号を獲得した!
というアナウンスが脳内に流れたのだが、どこで誰が、何の目的で俺に伝えているのか。
考えてみる価値はありそうだが、今は食い物を探すことと安全を確保することが先決だ。そういう世界だと捨て置いておこう。
《解析》をしてみたが《分析》と差はなかった。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『木』『木』『草』
相変わらず草木しかなく、詳細がわかることもない。
ただ、地面が近いのも面白いと思った。草の根をかき分けるのがデフォルトの視界なので、草がどう生えているか、どんな生き物の足跡があるのかわかる。今のところ、ネズミの小さな足跡しか見つけられていない。その足跡の主をまさに探しているのだが。
情報は欲しい。今俺はここが森で、自分が蛇ということしか知らない。
周りに自分より強い生き物が多い場所なのか、そもそも自分の食物ピラミッドの位置さえ知らないのだ。見たこともない母蛇が、外敵のいないところで生んでくれたならいいが、訊ねることも出来ない。
そして、そろそろ本格的に腹が減ってきた。
『草』『草』『木』『木』『草』『草』『草』『草』『?』『木』『草』
そんなところで《解析》結果に変化があった。
『?』という今までにないものが出て来たのだ。
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