風吹く夜に想うこと

@pain022

第1話

胸に広がる鈍痛で目が覚める。

―夢の中の私は、何物でもなかった―


窓を開けると朝日が眩しい。

勢揃えからはみでた髪の毛を正して、決まらない前髪に奮闘する。

よれた制服を身に纏う。今日のリボンは艶やかなみずいろ。


「リリコ、早くご飯食べなさい。」

家に響き渡る母の声。


前髪を気にしながら、食卓に向かう。

溶けたバターの香りが身体中に広がる。


「今日もお父さん、遅くなるって。」

リリコは、ふぅん、と返事をして椅子に座る。


「夜ご飯、駅前のハンバーガーでいい?」

リリコはパンにかじりつきながら答える。

「いいよ。あたしポテトも食べたい。新しい味、気になってるんだよね。」


いつもの朝の日常。


「それじゃあ、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。帰ってきたらちゃんとカギ閉めるのよ。杏仁豆腐、冷蔵庫に入ってるから、ママが仕事から帰ってくる前に食べてて良いからね。」


「うん、わかった。」


リリコの黒いローファーが朝日に照らされる。


最近、父の帰りが遅い。

その度に、母の表情が曇る。

私は気が付いていない風を装って、いつも通りを演じる。


高校までは徒歩12分。

それなりに勉強も運動もできて、当たり障りのない存在でいる。

それがリリコの高校生活。


「おはよう!」

教室にいるカオリとリホに声をかける。

「おはよう、リリコ!昨日のドラマ見た?ユウヤくんカッコよすぎてさぁ…」


学校はそれなりに楽しい。

でも、毎日が同じ色。代り映えがない。


―これでよかったのにな―

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