貨物船強奪?!謎妖精の陰謀
■ 海王星上空 浮遊首都サラキア
「……無駄な抵抗は止めて停船せよ。お前は当方の射程圏内にある。繰り返す。停船せよ」
「うるせ〜よ! 今日の俺はどういうわけかツキまくってるんだ」
宇宙港で定期点検中の小型貨物船を強奪した男は警備艇を蹴散らして、船を加速する。
彼のいう事は本当だった。
すってんてんになってカジノから追い出されたあと、あてどなく歩いていると偶然ハズレくじを拾った。普段なら目にもくれないのだが、どこからともなく天の声を聴いたのだ。
「仰せのとおりダメ元で換金してみたらよ。この通りってんだよこの野郎。ざまあ見やがれ」
得意満面で操縦桿を握る彼の背後には唸るような現ナマが山と積まれている。
「停船命令に応じねば発砲する」
海王星沿岸警備隊の
貨物船はガントリークレーンや荷役機械が立ち並ぶ港湾施設に逃げ込んだ。高度をぐんと下げ、架道橋を潜り抜ける。
ちょうど通学時間帯だったのか突風で煽られたスクールバスが空き缶を投げ捨てるように運河へ転落する。
前扉が開き、女子高生がこぼれ出る。少女たちはスカートの腰に手をやったり、セーラー服の胸元を両手で引き裂いてしまう。
着水する寸前、紺色の破片が舞い散り、ふわっと純白の翼が広がった。
地面効果を受けて赤、緑、青の学年別カラービキニに身を包んだ女学生たちが滑空していると、妖精が現れた。
「お前たちは恥じらいを忘れたの? こんな恰好をして平気なの? ていうか、お前たちは何なの? バカなの? 痴女なの?」
「……! 誰、あんた? 私たちは聖サラキア女子の高等部よ。あんた、どこの学校?」
名門校に通うお嬢様は妖精を逆に見下した。
「学校? 痴女の癖に勉強してるんだ。あはははは!」
「痴女はあんたでしょ? この時間帯に学校にも会社にもいかないでフラフラしてる妖精って生きてて恥ずかしいよね」
エリート校の程度がうかがえる煽りだ。
「娼婦の子孫ってみんな頭がやられてるのね。可哀想に。こんな社会が当然だなんて」
軽蔑と憐憫のまなざしで見つめる妖精を天使たちが睨み返す。
「壮大なブーメランおつ!」
「そのうち判るわ、学校でも教えてくれないこの世界のひずみを。あっ、そろそろ元凶が来るから」
妖精は薄ら笑いを浮かべながら、ふよふよと虚空に消えていった。
「何だろうね? あの馬鹿おんな」
女生徒たちはあきれ顔で見送った。
■ 海王星衛星軌道上
三隻のライブシップが海王星の公転軌道に入った。
惑星カシスを襲った原因不明の大規模地殻変動から三日。現地では国連の救助活動が始まったばかりだ。
「緊急の依頼です。案件は盗難船の拿捕。依頼主は海王星沿岸警備隊。募集対象は海王星付近を航行中のライブシップならびにモビックハンター。手空きの方はふるってご応募を! 報酬応談可」
オペレーター嬢の切迫した声が響き渡る。
強襲揚陸艦シア・フレイアスターの戦闘指揮所にハンターギルドから依頼が舞い込んだ。
「おか〜さん。応募しちゃっていい?」
次女のソニアがオーブンレンジからクッキーを取り出しつつ尋ねた。
もこもこしたパフスリーブを直しながら、シアが振り返った。
「今は募金活動の準備中でしょう」
「クッキーならわたしの超生産能力で何とかするよ」
「だーめ。ズルはいけません。心を込めて焼くのよ。善意のお返しでしょう」
「わたしも真心の超生産するぅ〜。ねぇ〜い〜〜でしょ〜〜? おか〜〜さ〜ん」
ソニアは言い出したら聞かない。シアはげんなりした顔で小麦粉を練る手を休めた。
「 コヨーテママと一緒に行きなさい。半時間だけよ」
「はぁい♪」
おしゃまな小娘がパタパタとスリッパを鳴らしてハッチに向かう。
ほどなく、並走していた航空戦艦が方向転換する衝撃が伝わって来た。
サラキア港湾局上空をのらりくらりと逃げ回る貨物船。
「おうよ。姉ちゃん。オラに運気をもっとくれ」
髭面の中年男が傍らに妖精をはべらせて上機嫌だ。
「いいわ。釣り餌は上等な方がいいもの」
「はぁ?」
謎めいた含み笑いに男が訝しむ間もなく、貨物船は猛然と加速する。
右から左へ、上から下へ、対艦誘導弾が輸送船めがけて飛び交う。威嚇のためか近接信管が作動し、ビル街に紅蓮の花が咲く。
「うぉ。市民の安全ガン無視かよ」
「あんたのせいでしょ。全市に避難命令が出てるわ……あ、馬鹿発見♪」
妖精が全天周レーダーに機影を見つけた。待ちわびた獲物が釣れた。
真っ赤に輝くワームホール太陽を背に銀色の翼が翻る。
恒星間宇宙戦闘機ミストラル。
「コヨーテ見参〜」 ベビードールの少女がコクピットでポーズを決める。
続いて、雲霞のごとき戦闘機の群れが降って来た。
航空戦艦サンダーソニアの艦載機。アタックスーパートムキャット21の襲来だ。
「来たぁ〜〜!」
断末魔の悲鳴。
雲間から噴煙がたばになって湧き上がる。誘導ミサイル、逃走中の小型貨物船をボコボコに粉砕する。
閃光。
舷側に当たる破片のくぐもった音が心地よい。
「ベローゾフ・ジャボチンスキー反応。消滅済ました!」
ソニアは嬉しそうだ。
左手を腰に当て、斜め45度上をにらむコヨーテ。
颯爽と去るシャトルを二隻の航空戦艦が後を追う。
「ありがとう。コヨーテさん
「無茶しおって……」
茜空に棚引く噴煙に警備隊員たちがいつまでも手を振っていた。
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