第8話 焼きそば

※地域ネタあり!!

 地元ネタではありません。

 各地域(一部ですが)の焼きそばの具が出てきます。

 筆者がネットで調べたことや、質問広場でいただいた情報に基づいて書き上げました。

 なかには筆者のネット調べで、間違った情報が混じっているかもしれません。

 そのために不快感を覚えることもあるかもしれません。

 (その場合は大変申し訳ありません)

できればミニメで知らせてくれると有り難いです。

 それではどうぞ次のページへ。


===


★Special Thanks(in質問広場)


釣蔵 様

伐詢 様

〆ゆきの〆 様

左のサイドSP 様

サラリンコ 様

トランクイロ・プーレ 様

ブタロ 様

獅凰 様

☆♪ラビ☆♪ 様

江戸城 本丸 様

AS(・U‐)KA 様


更新が遅くなって大変申し訳ありませんでした。

心の底からありがとうございます!!


===


ある町のある道にある、古びたレストラン「キャベツ」。

「こんにちわ~」

成田が食後のコーヒーを飲みながら、いつものように店員にツッコミを入れていたところ、

珍しく女の子の客がやってきた。

(しかもカワイイ!)

成田はポッとほほを赤くして、その少女を見つめ呆けていた。

成田の傍にいた店員がスッと移動して、さわやかな笑顔を作った。

「いらっしゃいませ、鶴山さん。

珍しいですね。大吾さんたちとは一緒じゃないんですか?」

「うん。今日は一人で来た」

「へー、鶴山さんていう……」

緩んでいた成田の表情が、真っ青になりビシッと固まった。

「って、男ぉおお!?」

自称ボディーガードの桐崎大吾の部下・鶴山倫太郎と店員が驚いた顔を向けた。

「そうですよ。気付かなかったんですか?」

「気付くかって……。てか、その服は女物じゃあ?」

鶴山はいつもの黒スーツと違って、ジーンズに白いコートという出で立ちだった。


ガッシィイイ!!


「ウッ!」

鶴山は成田の頭を鷲掴みにした。

「よー見てみ? これのどこが女物だって?」


……ギリギリギリ


「ちょ、つぶれる……」

「男がジーンズ穿いて白いコート着ちゃいけないんですかぁ?」

華奢な腕のどこに、こんな力が眠っていたのだろうか。

そして、どうしたら自身よりも背の高い人間を(しかも片手で)宙吊りなんかにできるんだ?


===


「ところで鶴山さんはどういった理由でこちらへ?」

店員は異様な光景に臆することもなく、いたって普通に鶴山に問い掛けた。

(それよりもこの人を何とかしてくれ!)

成田はひどく圧迫されている頭のなかで願った。

「あー! そうだった!」


ドシャムッ!!


幸いにも鶴山が店員のほうに気を取られたおかげで、成田の頭は無事解放された。

「ちょっと静岡まで行って来たから、お土産の富士宮焼きそば持ってきた」

「わざわざありがとうございます」

店員は丁寧に頭を下げながら、結構ずっしりと入った買い物袋を受け取った。

「ところで静岡へはお仕事で?」

「ううん。僕の友達の友達の友達の家まで遊びに」

「どこまで遠い知り合いなんだ!?」

「その友達の家でもごちそうになったけど、めっちゃ美味しかったよ~」

鶴山は成田の質問に答えるどころか反応もしなかった。

(……何これ、いじめ?)

「せっかくだから、今ここで作って食べましょうか。

ホットプレートもあることですし」

店員の言葉に成田は眉をひそめ、小さく挙手した。

「ちょい待ち、店の物を勝手に使っていいんか?」

「大丈夫、僕が無断で置いた私物ですから」

「またか!(第5章『回鍋肉』参照)

てか、私物のホットプレートを置いていく人間も珍しいな!?」

「えっ? 食べないんですか?」

「食べるけどさ!!」

↑※さっき昼飯を食べ終えた人。


===


机上の物

・ホットプレート

・富士宮焼きそば

・キャベツ(大量)


「よし!」

「よし! じゃねぇよ」

成田は一仕事終えた感の店員にツッコミを入れた。

「足りませんか? キャベツ」

「いや、足りるかって……足り過ぎるだろこれはぁああ!!」

机上のキャベツは乗せきれずに椅子にも転がっている状態だ。

「キャベツなら腐るほどありますからね。実際」

「お前が言うと冗談に聞こえないな!!

他の食材はどうした!?」

「うっふふふ。そう言うと思いましたよ。

ちゃんと用意してきました!」

店員が背後から取り出したのは、豚バラ肉のパック。

「うっ! 眩しい!」

「ほーら、イカもありますよ!」

「ぐっはぁああ!!」

「アンタどれだけ貧しいんですか?」

店員の呆れた(というか馬鹿にした)表情に、成田は恥ずかしくなっていつもの席に着いた。

「まあ、それはいいとして……さっきから何を焼いているんですか? 鶴山さん」


ジュゥウウ……


ホットプレートから煙が上がり、美味しそうな音が聞こえてきた。

「何って、マトン」

「何でマトン?

豚肉用意してるって言っただろが。

つーか焼きそばにマトンはねーだろ」

成田が「ちょ、丁寧語忘れてる」と言ったが、店員は聞いていなかった。

「あるじゃん。長野に」

「まさかロー麺のことか!?

ロー麺はロー麺であって、焼きそばでねぇええ!!」

↑※ロー麺はラーメン風と焼きそば風があります。

(な、何か怖ぇ……)

成田は店員の珍しく激しいツッコミに何も言えず、出来る限り隅っこに座った。

「ていうか、私が何肉を焼こうが、それを焼きそばに入れようが関係ないじゃん」


……プチッ


「えっ、何の音?」

不思議な音がして、成田があたりを見回していると、店員が「ズバンッ!」とテーブルを叩いた。

「関係あります! 僕は巷で噂の〈焼きそば奉行〉と呼ばれた男です!!」

(!?)


ズバンッ!


今度は鶴山が荒々しく立ち上がった。

「ええい、頭が高い!! 我は巷で伝説の〈焼きそば将軍〉なるぞ!!」

(!!?)

「ははあっ! 失礼いたしましたぁああ!!」

店員は時代劇のごとく、床に額を擦りつけて土下座した。

(あの店員が負けたぁああ!?)


===


「しかーしっ! 僕はあえて貴方に勝負を挑みたいと思います!」

深く土下座していたはずの店員は、有り得ないすばやさで起き上がって、

鶴山の面前にビシィッと人差し指を突きつけた。

「何か知らんが復活した!?」

慄いている(引いている)成田の後ろで、鶴山が「うっふふふ」と不気味な笑い声を漏らしていた。

「おもしろい。所詮は巷の噂、伝説である俺には敵わんよ」

「……アンタさっきから『私』とか『俺』とか、一人称が定まってねえのな」

「黙れ、空港男。お前の顔に旅客機を落としてやろうか?」

「何かわかんないけど、心の底からすみません」


「……というわけで」

焼きそばをテーマに、店員と鶴山の壮絶な(?)戦いが始まった。

「負けませんよ」

「かかってこい」

火花を散らしている二人の傍らで、成田は皿と箸を手に勝負を見守ることにした。

(……焼きそばで勝負ってどうよ?)

ホットプレートを挟んで、店員と鶴山はじっと睨みあっていた。

先に動いたのは店員だった。

「よりおいしい焼きそばを作ったほうを勝ちとします。まずは僕から」

よく熱したホットプレート(2つ目)に豚バラ肉を入れ、塩コショウで炒め始めた。

「そっちが豚肉なら、こっちはさっきのマトンで勝負させてもらうよ」

その時、鶴山があることに気付いた。

「そういえば、誰が審判すんの?」

「それは……」


じぃ―――


「え、やっぱり俺?」

「食べれますよね? 成田さんなら」

「ん、まあな。こんくらいなら軽い軽い」

↑※何度もしつこいけど、さっき昼食を食べ終えた人です。


===


「次、いきますよ。じゃがいも(栃木)」

「ゴーヤ(沖縄)」

「人参」

「ピーマン」

「にら」

「もやし」

「キャベツ」

「玉ねぎ。あ、こっちにもキャベツちょうだい」

「どうぞ。シーチキン」

「エビ」

「ほうれん草」

「ちくわ」

「タマゴ」

「フィッシュかつ」

二人が次々に入れる食材は一見アンバランスなものばかりだったが、

(おっ、結構巧そう)

試食する側の成田は別に気にならないらしい。

ここでとうとう麺が入れられた。

豪語するだけあって、どちらとも麺を炒める手捌きは見事であった。

「ラーメンつゆ(青森)」

「ミートソース(新潟)」

(あれ?)

「しょうゆ(関東)」

「ソース(関西)」

「ちょ、ちょっと待て! お前ら、それを俺に食わせる気か!?」

さすがの成田も顔を真っ青にして、慌てて止めに入った。

が、勝負に熱中している二人には聞いてもらえなかった。

「モダン焼き(広島)」

「ちゃんぽん(長崎)」

「もはや焼きそばですらねぇええ!」


===


勝負は五分五分と見え、なかなか勝敗がつかなかった。

そもそも誰が勝ち負けを判断できようか。

「ケチャップ(沖縄)」

「目玉焼き(秋田)」

「あのさ、さすがにもうやめたほうがいいんじゃね?」

やんわりと止めに入った成田に、二人は鬼のような形相を向けた。

「邪魔しないでください成田さん」

「そう。まだまだ勝負はこれから」

四つの鋭い眼光を前に慄きながらも、成田は首を横に振った。

「もう麺が見えねぇよ」

「え?」

「は?」

見ると、ホットプレートには麺を埋めてしまうほどの、大量の具材が美味しそうに焼けていた。

二人は「さすがにやり過ぎた」とつぶやいた。

どうやら反省はしているらしい。

「さすが巷の伝説。僕なんかじゃ歯が立たない」

「いやいや、アンタも結構すごかったよ。いい勝負だった」

鶴山が握手を求め、店員は笑顔で応えた。

なかなか美しい光景である。

背後にもうもうと煙を上げるホットプレートがなければ。

「じゃあ、天カスをかけて食べましょうか」

店員がどこからか『天カス(業務用大袋)』を取り出した。

「え? 普通、青のりじゃない?」

鶴山は懐から、容器に入った『マイ青のり』を取り出した。


「…………」

「…………」


「天カス!」

「青のり!」

再び言い合いを繰り広げる二人を尻目に、

成田は自分の焼きそばに『イワシ粉(静岡)』をかけて食べていた。

「……旨い。何でだ?」


※よい子はこんなもの食べちゃダメだよ!


===


おまけ

『某所・大吾の事務所』


ある町のある道の影にひっそりとある事務所。

そこは自称ボディーガードの桐崎大吾と三人の部下たちの仕事場であり、生活の場でもある。

男ばかりが4人、それぞれが家事を分担して日々を過ごしている。

食事は主に鶴山が担当していた。

鶴山は男だてらにピンクのフリル付きエプロンを着こなして、

ちょっと申し訳なさそうな顔で、その日の分の夕飯をテーブルに置いた。

「……と言う訳でぇ、今日の夕ご飯はぁ、余り物の焼きそばでーす」

犬飼がテーブルの上の、山盛りにされた焼きそばを見て一言、

「……麺はどこだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る