第2話 コロッケ定食
「なんで俺はここにいるんだろう……」
ある町のある道にある、レストラン「キャベツ」。
前回、思いがけず第一号客となってしまった男は、その店の前で盛大なため息をついた。
「いや、あのジュースはともかく、他のメニューはまともなんだよな」
目の前に青い液体がちらつき、長らく入口の真ん前でうんうんと唸っていた。
「ブツクサ言ってないで、さっさと入ったらどうなんです」
驚いている男に店員は、「いらっしゃい」とさわやかな笑顔を向けていた。
入ればやはり客のいない店内に、男は適当な席にさっさと座り込んだ。
渡されたメニューに目を通し、Aランチ以外で何かないかと探した。
「このコロッケ定食にしようかな」
写真も説明もないが、Aランチよりはマシだろうと思っていた。
「お飲み物のほうは?」
「コーヒー」
「オススメなのは……」
「絶対コーヒーな」
きっぱりと言い放つと、店員は不満げな顔を見せた。だからといってキャベツジュースはもうごめんだ。
先にコーヒーが出てきた。真っ黒い液体をじぃっと見つめてから、恐る恐るすすった。
「……コーヒーだ」
「? 当たり前じゃないですか」
てっきりキャベツの味がするのかと思っていたが、いたって普通のコーヒーだ。
「お待たせしました。コロッケ定食にございます」
テーブルに出された皿の上には、
「コロッケだぁああ!」
「当たり前だぁああ!」
大量の千切りキャベツと、かなり大きいコロッケがあった。これは期待通りのまともさだ。男は生まれて初めて、コロッケに感動した。
「それにしても、コロッケごときにこの喜びようは……」
「うっさい! 誰のせいだと思ってんだ!」
ほくほくとしてコロッケにかぶり付くと、ジャキッとした歯ごたえがした。
「……キャベツ?」
「当たり前じゃないですか?」
かなりのショックを受けて、男は「うぁああ」と頭を抱えて真っ白になった。
「最後にこれかよ!」
「お客さん」
振り向けば店員が満面の笑みで自分を見ている。
「期待したほうが負けです」
その日、レストランには「コンニャロォオオ!」という男の叫びが響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます