レストランキャベツ

みやぎん

第1話 Aランチ


ある町のある道をまっすぐ行くと、そこには古びたレストランがあった。

「レストラン……キャベツ?」

昼時になり、腹をすかせてやってきた二十代後半くらいの安っぽいパーカーの男は、店のネーミングに首をかしげた。

「どうするかなぁ。他の店はどこもいっぱいだし……」

しかし男は迷ったあげく、怪しい名前のレストランに入ることにした。

「いらっしゃいませぇ」

さわやかな笑顔で出迎えてくれた若い男の店員の後ろを見ると、他の客は一人もいなかった。

外観も古くて汚らしかったが、内装もあまり綺麗とは言えず、ソファは所々破れていた。

「お一人様ですか?」

「あ、はい」

「お煙草のほうは?」

「吸います」

「では座ってください」

「どこに!? 案内をしろ!」

すると、店員の目がスッと冷たくなった。

「早く座ってくださいよ」

「あ、はい……すんません」

ちょっぴりビビった男は、入口から近い適当な席にすばやく座った。

「ご注文は?」

「えーと、初めて来たんスけど、何がオススメですか?」

「日替わりのAランチはいかがですか?」

店員は後ろからササッとメニューを取り出した。

「……あの、写真も内容も書いてないんだけど?」

「焼きたて?パンとロールキャベツ(肉なし)とキャベツ炒め(キャベツのみ)になります」

「不安になりそうなパンを持ってくんな! つーかキャベツ以外の食材、パンと汁しかねーじゃん!」

すると店員はムッとした表情で、

「失礼な、コンソメと塩コショウも入ってます」

「肉とかは?」

「お飲み物のほうは?」

「無視?」

「オススメはキャベツジュースです」

「どこまでキャベツが好きなんだよ!?」

男は店員に掴みかかるくらいの勢いで立ち上がった。

「何言ってるんですか。この世のすべてはキャベツで成り立ってるんですよ」

「は?」

「緑の部分はキャベツ畑で、茶色の部分は刈り取った後で、青い部分は青く塗って沈めたキャベツです」

「マジ?」

「ではAランチとキャベツジュースでよろしいですね」

「あ、はい……ええっ!? いつ決まったよ!?」

「では少々お待ちください」

もはや男は言い返す気力もなかった(腹減りによるエネルギー切れ)。

すると店の奥に行こうとした店員が突然ピタリと立ち止まった。

「……精一杯サービスさせていただきますね」

見ると振り向いた店員の顔は感動しているようで、うっすらと涙さえ見えた。

「何せ貴方は、この店の初めてのお客様ですから」

それだけ言い残して、店員は足早に奥に消えた。

(全然うれしくねえよ)


===


やがて店員が運んできたAランチは、

「……うまい」

「それはよかった」

横で立っている店員は、なんだか偉そうだった。

「ところで、このキャベツジュース、すっごい青いんだけど?」

「サービスの青く塗って沈めたキャベツです」

「そんなサービスいるかぁ!!」

しかもキャベツは沈みません。

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