第9話 耐えきれない夜

さくらは

そこらに脱ぎ散らかされた衣類を拾い

俺に背中を向けて下着をつける

俺は彼女の背中から

抱き着き

それを邪魔する

さくらは困りながらも

照れたように微笑み


「早く着なきゃ・・・

君も早く・・・」


甘い時間を切り上げるような事を言うから

俺はさくらをまた

こちらに向かせて

首筋

胸元へキスを進めていく

さくらは

俺の手を抑え

身体をよじらせながら


「本当に

早く着て!!」


少し強めに言った


俺は小さくため息をついて

さくらの困った顔を見て

少し笑い

おでこにキスをして

服を着た


「私、帰るね」


さくらは早くその場から離れたいようで

帰ろうとした


「・・・なんで?」


俺は”なんで”って自分で聞いておいて

妙な質問をしたと直ぐに思う


「今日・・・どんな顔で恭一さん(兄)に会えばいいか分からない」


その言葉を聞いて

”さくらの心は

やはり兄が一番に居るんだ

俺とやった後でも

兄の事を優先して考えるんだ”

そう失望しつつ

俺はさくらと関係を進めたことで

ある意味満足していて

今までのように

子供じみた態度をとるつもりにはなれなかった

それよりも

どうにか

さくらを自分のものにしたくなった

だから

今は彼女を責めたくなかった

彼女が抱く深い心境を聞くと

この関係が消え去ってしまいそうで

彼女の事を困らせない様に振舞った


玄関先

彼女が靴を履く


俺はそれを見ていると

ドアが開いた


兄が帰宅した


さくらは兄を見て固まる

俺は取り繕うように


「早かったね・・・もう帰ったの?」


そう言うと

兄は俺の方を見て頷き

次にさくらの方を見て


「今日は会えないって言ったよね?」


今までにない冷たくも聞こえるテンションで言う

さくらは小さく頷いて


「少しでも・・・会えたら・・・」


そう言うと


「ちょっと来て」


兄は桜の腕をつかみ

自分の部屋へ連れて行った


怒っている様だった


俺は

自分の部屋に入って

壁にひっつく


兄が少し強めの口調で何かを言っている

さくら・・・大丈夫かな?


兄とさくらに何があったのか?

兄は怒っていて

でも

しばらくすると

珍しくさくらの声がした


「いや、好きなの!!」


好きなのって大きな声で言った?

その後


「お願い」

「お願い」


とすがるような声

そして急に静かになった



どうしたんだ?


すると

最近はなかったあのシチュエーション

テレビの音が聞こえた


マジか!


だけど

今日はいつもとは違った


両親がいないからか?

兄が酔っているからか?


揺れる音きしむ音

だけではなく

兄の息ずかいと

さっき俺の耳元で聞いたより

激しいさくらの色のある声が

家中に響いていた


何やってんだよ!!


さっき愛した俺の好きな人は

今、俺の兄に愛されている


耐えきれない夜

俺は布団を頭からかぶり

身体を丸くして泣いた





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