第15話 兵器マニア
東の言葉。
それはしっかりと、相手には伝わっているはずだが……、
それでも警備員はまったく、動く気配がない。
どこを見ているのか。
――東ではない。なにを見つめていた……?
なにか、思うことでもあるのだろうか。
いつもの東ならば大目に見ているところではある……、
だけど今は、メモリのことがあった。
のんびりと待っていることはできそうにない。
一秒だって、無駄にできないのだ――。
そんな状況にもかかわらず黙っていられると、
東もさすがに苛立ってくる。
ストレスだって溜まってしまう。
だから、
「早くしろ」と相手を急かす。
その時である。
東も、『これ』について、可能性がまったくないとは思っていなかった。
もしも逆の立場ならば、自分も同じことをするだろう、と、仮定を考えていたのだ。
だから、相手が拳銃を取り出し、
「……ここから先には通さねえぞ。ふざけんな、犯罪者、人殺し……、よくも、よくもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」
と、叫ぶことは、東にとっては予想通りと言える。
だからこそ、反応はすぐにできるというものだ。
拳銃は先ほど、弾丸を全て使っているので、使い物にならないだろう。
ならば――と、
残っている武器を頭の中で考え、すぐに行動に移す。
東は腰から抜き取った刀で、相手の持つ拳銃の銃口を――斬り落とす。
そこで、東が攻撃の手を緩めることはない。
今、なにが起こっているのか、
まったく分かっていない様子の警備員の首に向かって、再び刀を振るう――。
普通の刀とは少し違う、特殊な刀。
その『しなる』刀身は、警備員の首を、すぱんっ、と斬り落とす。
落とされた首は、ごろん、と地面を転がる……。
そんな、くだらない『もの』には目を向けず、東は、門を見上げる。
「さて――どうしようか、どうやって中に入ろうか」
そして、呟いた。
大きな、門。
両手でよじ登るのは、さすがに無理だ。
すぐに却下する。
他の方法もあるにはあるけれど、同じように全て却下だ。
門を破壊しよう、と思うが、さすがに、自分が持っているこの特殊な刀でも――、斬れるとは思えない。それに、今、手持ちにある武器はこれしかない。
ないとは思うけれど、最悪の結果として、刀身が折れるのは避けたいところだった。
東は、なにもせず、門の前で、ただ立っている。
慎重な行動だ。
この判断は、まあ、正解と言えるものだろう。
ここで停滞してしまうのは、あまり良いことではない……が、
それでも無闇に飛び込むよりは全然マシか。
ここは敵地と言っても言い過ぎではない。
だから、ここまで警戒するのは間違ってはいない。
模範解答と言えるものだろう。
だが、だからと言って、ここでなにもしないわけにもいかない。
東は案を出そうと脳を使うが、しかし、案はまったく出てこない。
それもそうである。
この門と、そしてこの壁は、街をぐるりと囲うように立っている。
東のような侵入者を入らせないようにするために立っているのだ。
すんなりと侵入できても、それはそれで困るというものだ。
だが、東の立場からすれば――、
入れないのは、これまた困るというものである。
中にはメモリがいる。
それは確実にそうなのだが……、ならばすぐにでも入りたいところであるのだが。
しかし、入れない。どうしたものか、と考えている――、その時であった。
門が、不気味な音を立てる。
下の方――東の身長よりも少し高いところの部分が、溶ける。
そして、人一人が通れるくらいな大きさの、扉の形をした穴が、出来上がる。
「…………」
東は、門を通り抜けることができるということを確認したものの、だが、警戒したまま、この穴を通ろうとはしなかった。当然、罠の可能性を考える。思考が、回り、回る。
待ち伏せをしている敵に、銃撃されるかもしれない。
剣で、串刺しにされるかもしれない。
爆撃に、襲われるかもしれない。
毒の空気が、充満しているかもしれない――。
考えれば考えるほど、罠の可能性が増えていく。
思考の渦に、飲み込まれそうになる。
その場から動けないでいた。
しかし、途中で思考をやめたことで、体が自由に動けるようになった。
もしも――罠だとして。
しかし東は、その罠を全て切り抜ける自信と技術があった。
だからこそ、細かいことは気にせずに――、
真っ直ぐに、突き進むことを決めた。
門を通り抜ける。
特に、なにもなく、
拍子抜け、という感想しか抱かなかった。
どうやら、罠などなかったようだ――、
しかし、となると、疑問点が出てくる。
門を破壊したのは、一体誰なのか?
予想がつかない、わけではない。
東にも、心当たりがあった。
その心当たりは恐らく……、いや、確実に当たっているんだろうなあ、と、東は思う。
あいつしか、いないだろうなあ、と。
―― ――
活発な妹とは反対に、
椎也は外に出ることを嫌がり、ほとんど、家に引きこもっている。
しかし、家にいて、ずっとぐーたらのんびりとしているわけではない。
家にいる間はずっと、自分の好きな事――趣味を満喫しているのである。
その趣味を言うならば――、兵器オタク、ということになるだろう。
三度の飯よりも。性欲よりも。妹よりも――、なによりも。
言ってしまえば、自分自身よりも兵器が好きなのである。
一日中触っていても飽きない。
行き過ぎて、一年連続で触っていても飽きないくらいには、どっぷりと浸かっている。
兵器――。
人を傷つけるものが大半であるだろう。
椎也も、興味があるのはそっちだ。作るのだって、そっちの方が得意である。
しかし、兵器と言っても、それだけではない。
人を傷つけない兵器だって、確かに存在するのだ。
人を傷つけない兵器の代表的とも言えるのが(とは言っても、これは椎也が勝手に言っているだけであって、世間一般に認知されているわけではないが)、この――偵察を目的とし、カメラを装備した、蜂の形をしている兵器である。
『
椎也はそう呼んでいる。
自由に、三百六十度、広範囲に動き、どんな環境でも耐えることができる通信カメラである。
大きさも本物の蜂と同程度であり、きちんと針まで装備されているという徹底ぶりである。
しかし、さすがに毒までは無限に出せるわけではなく、有限である――。
なので、そこを突かれた場合は徹底していないことがばれてしまうわけだが……、
意外と、椎也はあまり気にしていなかった。
どうでもいいことなのだと切り捨てて、気にしていないのだろう。
どうせ、些細なことである。
その偵察蜂であるが、椎也は大量に所持している。
数で制する――とでも言いそうなものだが、しかし、実際に使用する時は単体で使うために、たくさん所持していたところで、あまり意味はなかった。
メリットは、スペアがたくさんある、くらいである。
偵察蜂の目的は、攻撃ではなく、偵察である。
カメラに映像を残したり、遠くにいる相手とやり取りをしたりと言った使い道だ。
なので、針とか毒とか、使うことなど滅多にないと言えば、そうなのだが。
隠密に特化しているので、付ける必要はないのだけれど――、
だが、それでも付けてしまう椎也の技術はすごいものだ。同時に彼の悪癖でもある。
時には取捨選択が必要である。いらないものはつけず、いるものだけを搭載させる。
これもまた、技術者としての腕が見えるところである。
まあ、椎也は別に、この偵察蜂を誰かのために作っているわけではない。
全て、自分のためである。
自分の、自己満足のために作っているだけなのである。
なので、余計だのなんだのと言われたところで、椎也にはまったく響かない。
そう、空っぽの言葉なのだ。
だから椎也は、自分を貫き通している。
今頃、一瞬で人を殺せる装備を搭載した偵察蜂は、街を飛び続けていることだろう。
通った場所、全ての映像を、きちんと椎也に、リアルタイムで送りながら。
すると、送られてきた映像の中に、おかしな点があった。
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