問⑩【サヨナラの時間】

 とうとうこの時が来てしまったわけだ。

 ボクはどこかでこの時を覚悟していたような気がする。


「わたしにはわたしの幸せがある。なにが幸せなのか? それを決めるのは関川君じゃなくて、わたしなの」


 思えば彼女はいつも僕に二択を迫ってきた。

 たぶんだけど……僕はそのたびに彼女の望む答えを返していたのだと思う。

 だから僕たちは別れることなく同じ道を歩いてこられた。


 ボクはずっとそう思っていた。彼女も同じ気持ちでいると思っていた。

 だが人生はそんな単純なものじゃないらしい。

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、嫌いになったわけじゃないの。だから今しかないの……サヨナラするのは」


 彼女はそっと右手を差し出した。


「今までありがとう関川君、とっても楽しかった」


 そう言って、彼女は穏やかに微笑んだ。

 もう彼女の答えは出ているようだった。

 最後の最後まで理由も言わないままに。


 ボクは差し出された彼女の手を見つめる。


 その手を掴めばサヨナラだ。

 掴まなければ…… 


 それが彼女の問いかけた最後の二択だった。

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